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「800字文学館」

津軽西目屋村 暗門の滝

大月 和彦

 青森県の南西部から秋田県北東部にまたがる白神山地が1993年に世界自然遺産に登録された。広大なブナ原生林とその生態系が評価されたからという。クマゲラやイヌワシが生息する。
 江戸時代の旅行家菅江真澄が200年前に薬草の採取や鉱山跡を訪ね、山で仕事をする人たちの暮らしを追って歩いた地域だ。

 真澄は寛政年間のある秋、津軽の深浦から鰺ヶ沢、岩木山の麓をまわって岩木川上流にある目屋に入った。さらに奥地の暗門渓谷を遡る。「雪に手をつき、梢を踏んで、奥山深く入るに・・・、二つの急流が一つに合って滝となって落ちるところから、これをもろ滝という。この水が落ちて流れて暗門の沢に入る・・・、世にもまことに変わった神秘的な滝」と情景を記す。
 滝近くの杣小屋に泊まって山仕事の様子を聞き出している。

 弘前から津軽平野をバスで一時間、山峡の入り口に「世界自然遺産に登録された白神山地の村」の看板が目立つ。
 山峡に入ると岩木川をせき止めたダム湖が見えてくる。かつて白神山地で活躍したマタギの集落は水没し移転したという。このダムを壊してさらに大きな津軽ダムの建設と道路の付け替への大規模な工事が進められている。
 遺産地域の入り口に設けられた「アクア・グリーンビレッジ」が津軽峠や暗門の滝散策の拠点で、レストラン、売店、駐車場などがある。

 暗門の滝への遊歩道は昨年の豪雨で破損していて迂回路が設けられている。
 川の水量は多くないがかなり荒れている。河原には巨岩がごろごろ転がり、大木の根や枯れ枝が残骸を見せている。やがて両側が切り立った崖になり、パイプを組んだ桟橋が延々と続く。急坂を登りきると高さ30mの滝が現れる。真澄が描いた暗門の滝だ。

 ブナ林は明るい。木漏れ日が樹幹を微妙な色に映し出す。白っぽい幹に苔が鉢巻き状に貼りついている。耳を当てれば樹液の流れる音が聞こえるという。
 樹林をちょっと歩いただけで気分が爽快になる。森林浴の効果があったようだ。

(12・10・25)

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