作品の閲覧

「800字文学館」

シロアリのこない 被災地の復興

大越 浩平

 岩手県一関市に、7つの蔵を持ち95年の歴史ある酒造がある。東日本大震災で6蔵が被災し、土蔵や石蔵が傾き、崩れ、ひび割れ、足の踏み場も無かった。余震が続き、蔵崩壊の不安な日々を送る。会社は再興の目途も立たず、社員は庭や隣家や道路の石塊の片付けをしながら、三陸の被災者やボランティアの支援をして過ごす。
 専門家の調査が入り、蔵の被害の状況が明らかになり始めた。修復と再開の計画を始めた経営者は愕然とした。土蔵と石蔵は国の登録指定文化財なので、私企業では国の補助を受ける事は出来ないという。
 土蔵のひび割れが深刻であった。梅雨や台風で雨が浸み込むと、そこから強度が落ち崩壊するという。緊急に復興支援3000万を要請する。調査を続けると、被害は更に拡大し、土蔵の傾きが予想以上に危険で、その修復と内部の梁等の補強が必要と指摘された。急遽支援の追加を3000万したが却下される。資金の手当てが出来ないと、土蔵、石蔵のいくつかを潰さなければならず苦渋した。石蔵は東京駅を設計した辰野金吾の弟子、小原友輔の設計である。
 その間、蔵を愛する全国の人々から激励と支援があり、社員は励まされた。経営者は可能な資金調達の中で不完全でもすべての蔵を残す決断をする。上部の崩れた石蔵は下部を残し、崩れた上部は木張りにして保存、20~30年の耐用を目途に修復する。それでも差し当たり5000万円以上、維持費に年間200万と見積もられる。
 資金は復興予算、文化財保護財団、被災地復興ファンドから4000万円の目途がつき、修復を平成24年4月から始めた。被災地と無縁なシロアリ復興予算をいきどおる。
 食事処が再開している。練った小麦粉を自分でつまんで鍋に入れる「はっと鍋」や餅料理が郷土色豊かで楽しい。三陸の生牡蠣等の海産物に地元の山菜料理、それを地ビールやと純米大吟醸で味わう。たまらないおいしさだ。
 ぜひ立ち寄ってご賞味あれ、一関市の「世嬉の一酒造」だ。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧