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「800字文学館」

お役所の通信簿

稲宮 健一

 会計検査院が年度毎に国費の無駄使いを公表している。あたかも、それ以外に税の無駄はありませんと言っているようだ。この監査は入札、物品の納入などの予算の執行状態に関わるが、予算の企画主旨の正当性は問うてない。

 経営学の基本原則で、プロジェクトは企画(Plan)、実行(Do)、監査(Check)、修正(Action)のPDCAの閉じたサイクルを回せ、監査では最初の期待値と実績の齟齬を検出し、この点を修正して改善した次のサイクルを行わせると教えている。

 役所と民間では行為の目的も手段も違うが、それを承知の上で両者を比較してみる。公の機関の場合、資金の調達は税で徴収され、使用を司る主計部門との間に壁がある。一般社会への投資、例えば公共工事、福祉などの場合、予算が執行され、成果を生んで終了すが、直ちに評価が現れない。評価には広い民意の聴取や、長期間にわたる観察を要する場合がある。結果として、PDCAサイクルのCがあいまいで、効果的なAが行えない。ここに大きな無駄を発生する根源がある。

 この様にサイクルの中の壁や、責任権限の不連続で閉じないサイクルを運用で閉じさせる方法はないものか。まず、企画書作成に責任者を指名する。責任者の職務範囲は企画の最後の段階までとする。責任者は二段階までとする。それより上の責任者は企画の社会的影響など広い見識に基づく意見を承認欄に、印と共に記載する。企画した人の通信簿として人事評価の重い資料とする。管理責任者は正確な評価ができたか否かを管理者の資質の評価に結び付ける。また、公の機関の行為は人々の生活に直結しているので、企画段階から情報公開を行い、特に期待する成果に関してはパブリックコメントが広く反映されてなければならない。

 役所には独特の仕来りがあるものの、直接の担当者の責任を明確すると同時に、管理者の責任も明確にすることにより、従来の稟議書で多数の人に責任が分散させる慣習に対してあいまいさを防ぎ、無駄を省けないか。

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