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「800字文学館」

東京駅の「謎の物体」

野瀬 隆平

 新装なった東京駅を写真に収めようと出かけた。地上から見るのも良いが、やはり少々高い所から俯瞰して眺めたい。丸ビルの5階にあるデッキから望遠レンズを通して、新しい駅舎をつぶさに観察しているうちに、一つ奇妙なものを見つけた。それは、中央玄関の真上にある丸い屋根の上に、でんと控えている。昭和20年の空襲で屋根が焼失した時に撤去されたあと、今回の改装までは無かったものだ。その形はお寺の釣鐘のようでもあり、兜の様にも見える抽象的なオブジェである。
 何か特別の意味を持つのか知りたくなった。さて、どうするか。駅の案内所では、答えは期待できそうにない。そこで思いついたのは、これも改装されたステーション・ホテルだ。早速、フロントに向かう。突然のおかしな訪問者にも、ロビー・マネジャーのKさんは、親切に応対してくれた。彼自身もよく分からないので、いわれを知っていそうな改装工事にかかわった人に電話で問い合わせてくれる。しかし、残念ながらその人は不在で、意見を聞くことが出来なかった。
 帰宅して、Kさんにお礼を兼ねて自分が撮った「謎の物体」の写真をメールで送ろうとしたら、入れ替わりに次のようなメールが入っていた。
「JRの復元工事の責任者に問い合わせたが、駅舎を設計した辰野金吾博士の独創であり、その意味や由来を記載した資料は見つからなかった。敢えて申し上げるとすれば、『東京駅中央部、屋根銅版飾り』となる。ご期待に添えずに申し訳ありません」という、丁寧なものだった。
 設計者の辰野博士が何をイメージして創ったものか、残念ながら正確に知ることは出来ないが、明治の人が近代西洋の建築・美術とはこういうものだと理解し、表現したのだろう。
 ところでこの駅舎、俗説にオランダのアムステルダム中央駅を参考にしたといわれているので、以前撮影した写真を引っ張り出して眺めてみた。中央の塔の上に飾られているオブジェが例の物と似ているように思えた。

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