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「800字文学館」

地震雲とタイムマシンの改良

志村 良知

 ある席で、地震雲の事をしつこく話す人がいたので「地震雲の発生原因は何か」と問うてみた。「電磁波である」という返事だったので、それでは回答になってないと「その電磁波はどこで発生し、何ヘルツくらいで、地震雲が発生する高度数千メートルで何デシベルくらいの強度か」と追い打ちをかけた。すると自分には理論的なことは判らないと、いくつかのホームページを紹介された。大部分は平凡な雲の写真集の体にすぎないが、中には地震雲と称する実例と地震の緻密な記録を元に、目もくらむように難解な理論が展開されているものもあった。

 そのいくつかを読んでいて、エンジニア時代、パテントウオッチの仕事をしていた時の事を思い出した。パテントウオッチとは、公開と公告の特許公報を読み、開発中の自社と他社の技術の関係を把握する仕事で、10年以上の経験あるエンジニアが交替で受け持った。これには膨大な時間がかかるのに、研究開発での仕事量への考慮はないので、本来の業務を全部終わらせた後の真夜中に一人で.特許公報の山と格闘するのが常だった。
「タイムマシンの改良」に関する特許に出会ったのもそんな時であった。運転中空間に浮遊してしまうというタイムマシンの重要部品が浮かないようにする技術に関するもので、特許請求の範囲、従来技術の欠点、解決しようとする技術的課題、実施例などが特許に独特な日本語で記述されている完璧な形式の特許だった。ただその内容は私が学んだ物理学の世界とは異次元のもので、どこかに実在するらしいタイムマシンの稼働状況の描写は生々しく、真夜中のオフィスの静けさとぼんやりした頭には刺激的だった。私はそのコピーをとって、至急回覧特許とした。

 タイムマシンは別として、地震雲に関してなら私にも物理学と気象学からかなり緻密に理論展開できそうである。それに写真と写真修正技術を加えれば、俺はこの世界の権威になれるのではないか、などと悪心が疼く。

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