作品の閲覧

「800字文学館」

ブラジルへの旅

富岡 喜久雄

 昨年末はブラジルを想うことが続いた。「サロン21」では彼の地のインフレを思い出し、「英語を読む会」では記事中に貧富格差是正が取り上げられていたからである。

 ブラジルは二度訪ねた。それは対照的な楽と苦の旅だった。一九八0年代の初めブラジルは、好景気だがインフレ気味で、毎月数%ずつ物価が上がり、それを後追いで政府のバラマキが追いかけている状態だったから、庶民は自己用、富裕層は投資目的にマンション購入が盛んだった。

 海外事業を広島移民の多かったペルーから始めた勤務先は、ブラジルにも現地法人を設立していたから、商機に敏い某商社の企画に乗り、提携してマンション事業に乗り出した。リオ近郊のサンコンラードから始め、各地の集合住宅は完売が続いた。嘗ての日本と同じく住宅ブームだったのである。
 現状把握と今後の戦略を確認するため出張することになり、ロスまではJAL、そこからVARIGでリオまで、殆ど一昼夜の飛行だったと思う。カーニバルの華やかさは聞いていたし興味が先行し、若さも手伝って長旅はちっとも苦にならなかった。着いてみると、インディオ系住民の国がうら寂しさを感じさせるのに、アフリカ系混血の住むブラジルは滅法明るかった。サンバとフォークローレの違いの如くであり、人種的差からくるものだろう。

 打ち合わせを早々に済ませて街にでた。コパカバーナはビキニ姿で一杯である。ムラータと呼ばれる混血娘はインディオ系のモレーナより大柄で肉感的。彼女らがビキニ姿で闊歩するのを見ると目が眩んだものだ。山頂に立つキリスト像に敬意を表し、さらに「黒いオルフェ」で名を挙げたスラムも見てから街に下れば。夜のクラブに色とりどりの美女が妍を競っていた。
 提携先が用意した接待用のホテルは特大スイートで、大きなウエルカム・ブーケとシャンパンが届いているとくれば楽園だったと言わざるを得まい。しかし楽あれば苦ありだ。苦は3か月後に巡ってきたのである。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧