乾いた地の果て
テレビに映された画像は、灼熱の砂漠。見渡す限り砂の大地が広がっている。日本企業「日揮」とそれに関連する社員20名の尊い命が、ゲリラによる非情な襲撃によって失われた。その場所はアルジェリアの奥地、乾いた無辺世界の中の天然ガス・プラント建設の現場だった。
北アフリカに位置するこの国は長い間フランスによって支配されていた歴史があり、首都アルジェはフランスの香りを色濃く残している。その一方、地中海に面しながら背後の内陸には広大な砂漠が控え、暑い陽射しの乾いた街である。
植民地時代にアルジェリア人の居住区だった旧市外の一画は、カスバと呼ばれる。長い戦乱の末、1962年にフランスから独立を獲得するが、カスバはフランス統治時代の1930年代に映画史上にその名を輝かせる作品を生み出す舞台となる。
『外人部隊』や『地の果てを行く』、そしてジャン・ギャバン主演の『望郷(ペペ・ル・モコ)』は日本でも大好評を博した。カスバが外人部隊や犯罪者の隠れ場だったから、映画制作に大いに寄与したのだ。
日本では1955年にエト邦枝が歌って以来、沢たまき、青江ミナ、ちあき・なおみ他の低音が魅力の歌手たちに歌い継がれてきた『カスバの女』が、平成の現在でもカラオケで必ず歌われる国民的歌謡曲になっている。「カスバ」の名前を知らない日本人はいないだろう。
「ここは地の果てアルジェリア、どうせカスバの夜に咲く……」という歌詞は、砂漠の街の乾いた雰囲気をよく表していて、30年代のフランス映画がこの歌の背景にある。
この歌の6年前に菊池章子が歌った『星の流れ』も日本版『カスバの女』だ。
日揮はこの国で40年余りのプラント開発の実績があり、イスラム過激派による激しいテロ活動と内戦の最中でも撤退しなかったから、国民からの篤い信頼を得ている。
「地の果て」アルジェリアは、実際に行く日本人は限られているとはいえ、昔から親しみを持たれている国なのだ。