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「800字文学館」

目を見張るメバル釣り

中村 晃也

 そう、今は昔の七十年代のことである。
 銚子港から釣り船をチャーターし、春告げ魚とも呼ばれる沖メバルを狙った。海藻の多い岩礁に住み付き、半身を穴から出して落ちてくる餌を待つ根魚で、冬から五月の連休までが釣りシーズンである。

 午前七時、釣り場には、既に先着している釣り船が数隻あった。
 旧式の太鼓型のリールがついた釣竿が配られる。仕掛けは四十センチおきに八本の針をつけたハリス。最下端に、三十号の円錐形の錘をつける。餌のイソメをつけ、両舷に十名ずつ並んで、一斉に糸をたらす。

 そのうちにポツポツ連れ出した。一匹ずつ釣り上げるのは不効率で、魚が食い込むたびに少しずつリールを巻いて次の針に食わせ、一辺に数匹を吊り上げるのがコツだ。
 外道としてはソイやホーボー、アイナメなどが掛かる。始末に終えないのが鯵や鯖などの青モノだ。針掛かりすると横に走るので、一挙に数名の糸が絡まり大騒ぎになる。

 一人に大物が掛かった。グイグイと竿が引き込まれる。と、反対側の舷の一人にも大きな当たりが。なにか大物の群れが来たのか? みな固唾を呑んで成り行きを見守る。激闘数分、結局船底の下で二人の仕掛けが絡まったことが分かり、興奮は収まる。

 潮目が変わったのか急に釣れだした。ポイントとなる岩礁上に船が密集し、隣りの船と竿同士が触れ合わんばかりだ。
 私は八本の針に八匹のメバルが付いたことを確信し、リールを巻き上げた。重い、重い。道糸とハリスの接合点を持って一気に獲物を船内に托し上げた。が、掛かった獲物の数が異常に多い。見ると隣の船からの道糸が絡んで、先方の獲物も一緒に釣り上げたらしいのだ。魚が暴れるとますます糸が絡むので分からないように先方の糸を鋏で切ってしまった。
 先方の釣り人は「畜生、大物がかかったらしいけど、糸が切れちゃったよ」と仲間に告げている。

 八本の針で一挙に十六匹のメバルを釣った私の偉業は、永遠に仲間内に語り継がれるものと確信している。

二十五年一月

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