ザシキワラシの話
東北地方に伝わる妖怪の一種ザシキワラシは、旧家の奥座敷に棲み、幼い子どもの姿をしているといわれる。座敷童子、ザシキボッコ、クラボッコなどともいわれる。髪をオカッパにした子どもの姿をしていて、顔は赤いとも白いともいわれ、歩くときに足音をたてる。人に害は与えない。家に居つくと繁盛し、いなくなると家運が傾くとされる。
遠野物語にザシキワラシの話が載っている。
遠野の土淵村、ある夜村の男が町から帰る途中、橋のたもとで見馴れないきれいな2人の娘に逢った。どこから来たかと聞くと山口の家からと答える。これから何処へいくのかというと、少し離れた村の何某の家という
これを聞いた男は、山口の家は世も末だなと思った。まもなくその家の主従20幾人が、茸の毒に中(あた)って一日のうちに死んでしまい、7歳の女の子が一人残った。その娘もまた年老いて子どもがなく、最近病死したと聞く。(第18話)
遠野市の昔話資料館には、岩手県の閉伊地方に伝わる風習で、家を新築した時に大工が座敷の床下に人知れず埋める子どもの形をした人形が展示されていて、これがザシキワラシの正体という。
遠野地方でも家の新築に際して大工の棟梁は小さな御堂を作り、中に人形を彫って本や鏡などを一緒に入れて封をし、棟木に打ちつける風習があったという。
遠野物語の語り手だった佐々木鏡石は、モノの霊魂が何かの折に座敷に現れるのではないかと推測している。
戦後の一時期岩手県金田一温泉に住んだ作家三浦哲郎が、ここを舞台に『ユタと不思議な国の人たち』を著わした。ザシキワラシを、むかし間引きされてこの世に出ることがなかった男の子と設定した。満月の夜古びた旅館の離れに紺がすり筒袖の着物を着て現れ、土地の子どもと交流する憎めないユーモラスなものに描いている。
ザシキワラシの里として知られる金田一温泉の旅館に泊まり、女将にこの愛らしい妖怪に会いたいというと、ザシキワラシは居ると信ずる人の前にだけ現れるのだとかわされてしまった。
(13・3・14)