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「800字文学館」

紹興酒とザラメの正しい関係

三春

 大田区蒲田の餃子御三家、你好(にいはお)・金春(こんぱる)・歓迎(ほあんよん)をご存じだろうか。蒲田は知る人ぞ知る餃子激戦区。昭和30年代の面影を残す「你好(にいはお)」の前を通ったことはあるが、凄まじくレトロな外観に気おされて、行かずじまいだった。
 GW最後の夜、運動不足解消を兼ねて2駅先の京急蒲田まで歩く。京急高架化に伴う周辺再開発で、かつての繁華街はまるごと閉鎖されて取り壊しを待つばかり。「你好(にいはお)」はこの先のうらぶれた地域のはず……見つけた、「営業中」!
 開店したばかりの時間なのに奥の席には早くも10人ほど。客のいるところだけ明るくてあとは照明もつけず、体裁など気にしてない。すぐ脇に業務用冷蔵庫が遠慮なく置かれ、その隣には訪れた有名人たちの写真がズラリ。うっすらと埃を被った一輪の造花、射的景品まがいの動物人形が物悲しく似合っている。
 まずはビールに元祖羽根つき餃子と蝦餃子。背中を丸めたお婆ちゃんが無言でドン!と置いていく。皿はすべて樹脂製だ。外側パリパリ、中はジューシーで評判通りの味がなんと6個で300円。壁に貼られたメニューを見ると一番高い料理でも1200円。北京ダックや燕の巣、鮑や鱶ヒレなどとんでもない、すべて家庭料理である。
 続いて皮蛋(ぴーたん)、回鍋肉(ほいこうろう)と麻婆茄子は豆鼓醤(とうちじゃん)が効いている。紹興酒のボトルは素性のしれないノーラベルのガラス瓶。ザラメも頼んだのにでてこない。すると70代とおぼしき店主がやってきて、「どうしてザラメ欲しい? ザラメ、不味い1~2年物ごまかすためネ、これ自慢の10年物、ザラメ要らない。飲めばすぐわかる!」 
 実を言えば、飲んだのにわからなくて、さっきまで密造合成酒かと怪しんでいたのだが……、「う~ん、やっぱり10年物はちがうねぇ♪」

「お待たせしました」も「ありがとうございます」もない徹底的無愛想と殺風景が、否が応でも中国的雰囲気(?)を醸し出す。3本目の紹興酒を空けた頃には、大連あたりの路地裏屋台にワープし、周りの声がすべて中国語に聞こえてくる。

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