ドンバはズージャでドシャメシャ
横浜音楽堂での「クラシックな休日を」、と題するコンサートを2列目のかぶりつきで聴いた。プログラムはガーシュインと一柳慧、オーケストラは東京交響楽団、指揮藤岡幸夫、ピアノ山下洋輔。
山下洋輔を初めて聴いたのは、1976年のモントルージャズフェスでの山下トリオの実況録音盤『モントルー・アフター・グロウ』だった。『ゴースト』の中間から3人が体力の限り全力疾走する音の奔流に何故か涙ボロボロになった。後に、その演奏前後の様子の事を書いたエッセイ集「ピアノ弾きよじれ旅」を読んで、ズージャ、ドンバ、ビータの山下エッセイの世界にはまり、彼がビータ中読んでいる筒井康隆にもはまった。
当日の山下洋輔の演奏は、プログラムに即興とだけあるピアノソロと最後の『ピアノ協奏曲第四番 ジャズ』。横浜開港百五十年記念に一柳慧が山下洋輔の為に書いた曲で、会場含めて初演の組み合わせである。
ピアノソロは『トロイメライ』がテーマ。口あけとあって慎み深い演奏で、スタインウェイへの肘打ちも数発のみ。右足の残響ペダルは細かく踏むが、左足は体重を支える道具で、弱音ペダルに用はない。
ガーシュインを二曲挟んで、最後は『ピアノ協奏曲第四番 ジャズ』。
演奏前に作曲者一柳慧自身が登壇しての解説があった。オノ・ヨーコの元亭主である。八十歳だと言うが颯爽とした身のこなしで若々しい。作曲者自身の解説というのは現代音楽ならではである。
演奏が始まった。指揮者が山下洋輔を抑えたり解き放ったりする様子はさながら猛獣使いである。楽員も極度に緊張しているのが伝わってくる。フィナーレでのオーケストラ全楽器とピアノの、「凶暴に」と楽譜指示されているという爆発が心地良い。
アンコールはスイングで始まった『ティー・フォー・ツー』。しかし途中から雲行き怪しくなり、最後はピアノの肘打ち連発に呼応したオーケストラが全員楽器を持ったまま立ちあがって弾きまくるドシャメシャで終わった。
(文中敬称略)
注;用語解説
ドンバ=バンド、楽団。 ズージャ=ジャズ。 ビータ=旅、演奏旅行。
ドシャメシャ=山下の演奏スタイル「フリージャズ」の山下自身の形容。