作品の閲覧

「800字文学館」

名物サバサンド

中村 晃也

 私は、外見に似合わず神経が細かいほうだと自分では思っている。一例を挙げると青魚に弱いのである。少しでも古い鯖を食べると蕁麻疹がでる。
 顔の皮膚がピリピリしてくる。唇が分厚くなったように感じる。腕や膝裏の毛穴が赤く盛り上がり、痒くなる。パンツのゴムに沿ってボツボツが発生し大きさを増し、遂にベルト状に赤く盛り上がる。ひどい時には胸や背中に世界地図のように広がる。
 ある時日本橋の高級寿司屋で鯖寿司を食べたところ、直ぐに発症し、帰路掛かり付けの医者に駆け込んだ。
 医者曰く、「高級な寿司屋では、新鮮な味を保持するために長時間漬けないので、ナマに近い。一方安い寿司屋では古い鯖でもシッカリ漬けるのでアレルゲンがおさえられるので痒くならない」。

 体質が変わらないまま、トルコのイスタンブールで鯖を食べるハメになった。旧市街と新市街を隔てる金角湾に架かるガラタ橋では、百人以上の釣り人が糸を垂れている。金角湾はボスフォラス海峡に直接つながり、良型の鯖が釣れるという。橋の袂は船着場になっており、少し歩けば喧騒のエジプシャンバザールに繋がっている。

 船着場には数台のテーブルを配した大型のテントが張ってあり、隣接して飾り立てた船が横付けされている。船の中では大きな鉄板で三枚に卸した鯖の切り身が数十枚焼かれている。焼きあがった鯖は大型のコッペパンにサラダ菜とともにはさまれて、一個5トルコリラで飛ぶように売れている。これが有名なサバサンドである。経験の為一口だけ、塩とレモン水をふって食べてみた。

 意外に味が良く、気がついたら既に半分以上は食べ終わっていた。心配だった蕁麻疹は、頬がややこわばった位で問題にならなかった。ボスフォラス海峡は地形上潮速が早く、日本で言えば九州の豊後水道の関鯖のような良質の鯖がとれ、しかも超新鮮な魚であれば蕁麻疹にならないのだ、と納得した。

 フランス語でいえば「サバ?」「サバビアン」というところだろうか?

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧