作品の閲覧

「800字文学館」

昭和の面影とどめる映画館

濱田 優(ゆたか)

 日本列島大賑わいのGWの最中、連れと地味に近所の古い映画館に行った。
 映画は、昨年第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞他の賞を総なめした『桐島、部活やめるってよ』で、原作者の朝井リョウは二十四歳、今年一月に初の平成生まれの直木賞受賞者として話題になった。
 さすがにその日の客層は若く、映画はなかなかのものだった。が、それはさておき、ここでは映画館という箱の話をしたい。

 行ったのは、この地域でただ一軒残っている「三軒茶屋シネマ」。駅の近くの、通称「三角地帯」の一角で六十年間上映を続けている二番館である。
 外観から昭和のレトロ感が漂う。階上のロビーに上ればタイムスリップして昔の名画座の中、切符のもぎりと売店の売り子を年増のお姉さんが一人で兼ねていた。周囲に貼られた近日上映のポスターを眺めながら、小島屋の「牛乳もなか」を食べる。今どきの濃厚な甘さに較べるとあっさりして懐かしい味だ。

 座席数百五十ほどで小振りの館内は、後方の席が急な階段状になっている。狭い敷地に建てるのに棚田の知恵を借りたのか。前に来たとき、連れはお尻が痛くなったといい、二本立てのお目当てを観ずに一人帰った。それに懲りて今回はメインの映画一本に絞ったところ、座り心地は悪くないという。見た目は古い館内のまま変り映えしないけれど、座席は改修したのかもしれない。

 ところで、この先にもう一軒、二月に閉館した老舗映画館「三軒茶屋中央劇場」があった。今も河童の看板が目立つ建物はそのままだ。
 シネマと中劇は、長年良きライバルとして競いながらも、助け合って時代の荒波を乗り越えてきたに違いない。二館並んで知る人ぞ知る三茶の名物だった。これからも寄る年波に抗って孤軍奮闘するシネマを応援したい。

 封切を見逃したら、「三軒茶屋シネマ」の上映予定をチェックしてご来館あれ!
 映画の後には、三角地帯の迷路のような路地にひしめいている昔ながらの飲み屋街もありますよ。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧