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「800字文学館」

乳幼児の代弁者

池田 隆

 BSフジ プライムニュースで「待機児童ゼロへの急改善 市長が語る【横浜方式】」を見た。林文子市長と共励保育園の長田安司理事長に対して、反町、八木の両キャスターが鋭い質問で二人の経験や意見を聴きだす。
 安倍首相が横浜方式を全国へ横展開するように指示したことで、注目の話題である。市長が企業出身者として、三年ほどの期間で千数百名もいた待機児童を無くした手法と実績は流石である。
 一方の長田氏は長年にわたり手広く、地道に保育園経営をしている。市長の手腕と成果に全面的に賛意を表すかと思いきや、三歳までの乳幼児の長時間保育が普及することを、日常の現場経験から強く心配する。
 乳幼児は母親と出来るだけ一緒に過ごすようにすべきで、労働政策の都合で、若い母親を家から駆り出すのは本末転倒と言う。
 市長は理念論議より具体的施策が大事と反論する。両者の論点が噛合わない。私自身の僅かな経験からではあるが、長田氏の気持ちに共感を覚える。

 朝早く我が家の前を近くの保育園へ向う親子が通る。急ぐ親の手に引かれ、子はとぼとぼとついて行く。一時間ほどが経ち、今度は幼稚園の送迎バスを待つ親子がきゃっきゃと言いながら集って来る。毎日が遠足のようである。
 以前の事だが、保育園に通う幼い孫のお迎え役が定年後の私の日課であった。私の顔を見つけた途端、どんな遊びをしていても、帰り支度をして飛んで来る。他の子も大勢寄って来て、羨ましげで、淋しそうな目つきで私を見つめる。孫だけを一足早く連れて帰るのが心苦しかった。

 乳幼児期の母子関係は子の成長に影響しないと言う学者や親もいるが、乳幼児期の心理状況がその後の人格形成に全く無関係とも思えない。しかも母親と一緒にいたいという、乳幼児の強い気持ちは確かである。
「君の将来には関係ない」と言われて、今の気持ちを全く無視されたら、誰でも嫌だろう。乳幼児は物を言えないが、目で語っている。
 長田氏がその代弁者に見えた。

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