文明・西と東
本棚から古い文庫本が出てきた。表題は『文明・西と東』で、昭和四十五年に、C・カレルギーと池田大作の対談を記述した内容である。なかなか味のある話題が語られている。C.カレルギーはハインリッヒ・クーデンホーフ・カレルギー伯と光子の次男(日本名は栄次郎)で、パン・ヨーロッパ運動に一生を捧げた人である。
カレルギー伯は日本を世界第六番目の大陸とみることが妥当だと述べている。その理由は、日本はユーラシア大陸の東の外れの島国だが、その文明は現代においては隣国の中国、ソ連の文明よりヨーロッパの文明に近い。中国が共産化した結果、西洋文明、仏教、儒教の三つを融合した文明を持つのは日本だけなので、一つの文化大陸と呼びたいとの主張である。
さらに、両文明について、気候風土が似ている地域に興り、その文明を築いたのは日本では仏教の僧侶階級と武士階級、西欧ではキリスト教の僧侶階級と騎士団であると言う共通点がある。この着眼点は梅棹忠夫の『文明の生態史観』の主張と重なる。
中国に関して、中国は本来、世界最大の文明国の一つであるので、共産主義の経済体制と、中国古来の儒教の道徳性との間に何らかの妥協点が見いだせると信じたい。また、毛沢東に関しては、かつて無政府状態におちいり、諸外国から屈辱を受けていた中国を立派に立ち直らせた点で尊敬している。
ソ連に関して、西欧とソ連の大きな相違は、西欧諸国は何世紀にわたって、自由のために戦ってきたのに対して、昔からロシア人は自由というものを知らない。ロシア人は古代スカンジナビアの北方民族の支配下でも、蒙古族の支配下でも、旧帝政下でも、現在の共産党政権下でも、自由を経験したことがない。自由がなくとも、素晴らしい世界ができると思っている。
この対談の後、大躍進、文化大革命の混乱と天安門事件、ベルリンの壁の崩壊が発生している。これらを含めて再び対談が行えたら興味深い洞察が聞けたと思う。