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「800字文学館」

泉田、メルケル、安倍

池田 隆

「本年度内に赤字を解消したいので、柏崎刈羽原発の再稼働申請を了解して欲しい」と述べる広瀬東電社長に対し、泉田新潟県知事は「安全・安心よりも経営・収益を優先するのか」と強く反論した。
 ドイツでは四十年来、原発の是非が国民や政党間における最大の政治課題であった。ところが、福島原発事故を受けて、メルケル首相は原子炉安全委員会のほかに、エネルギー供給に関する倫理委員会を急遽立ち上げる。その委員会は社会学者、哲学者、宗教家などが主体で、電力関係者や原子力技術者はいない。彼らの意見を受け、メルケルは自らの過ちを認め、従来の原発推進側の立場から脱原発政策へと舵を切り直す。多くの国民も彼女の転向を暖かく見守った。

 他方、わが国の安倍首相は昨年暮れの総選挙で、脱原発の公約を掲げながら、大勝すると原発輸出を促進し、今回の参議院選挙では原発容認の方向へ姿勢を変えた。その理由として、火力用燃料の増加による電力関連の収益悪化など、短中期的な経済的事由を列挙する。次世代への配慮とか、長期的経済性の視野が欠如している。
 再稼働の安全性の判断は原子力規制委員会に委ねると言う。しかし、いかに深い専門知識と経験をもつ者でも、完璧な技術的判断をすることは不可能である。一旦判断を誤れば、大災害となる原発については、広い分野から利害関係のない識者を選び、その意見を尊重した上で、自ら判断する度量と見識を首相に求めたい。
 また、発生事故には政府が責任を持つとも言明する。しかし福島原発事故でも分るように、被害規模は政府の処置能力を遙かに超える。首相の言葉は空しく、無責任に響く。新潟県知事の卓見を見習うべきだろう。
 アベノミックスと書かれた株券と札束の御旗を振りかざす今の与党には、勝てば官軍という傲慢さが垣間見える。
 政府支給のパンとサーカスに満足し、姑息な政治家の下で国を滅ぼした、古代ローマ市民の轍を踏まぬように、我々は注意しよう。

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