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「800字文学館」

夏の雑草―おじゃま草

大月 和彦

 6,7月の梅雨どきは、気温があがり、雨も多く、植物は勢いづく。花が植わった地面の雑草はこの時期に春から夏の草に交代する。春の草に比べ、しぶとく強靭な雑草は、草花や野菜にとって脅威になる。
 一坪ぐらいの土地に植えたチューリップの花が散り、葉と茎が枯れるのを待っていたかのようにイネ科の草がぐんぐん大きくなる。主役は、どこにも見られる雑草、コメヒシバとエノコログサ(別名ネコジヤラシ)だ。

 コメヒシバの細い茎が地面を這い、節で枝分かれして、網目のように広がる。根は意外に地中深く張っていて、抜こうとするとすぐ切れてしまう。5,6日するとまた生えてくる。シバの仲間らしいが一本の茎が4,5日で地面を這って根をつけてしまう。チューリップの球根が地中に埋まっているので掘り返すわけにはいかずお手上げだ。

 エノコログサもものすごい勢いで成長する。植物図鑑には「いたるところに生える一年草、畑のあとにとくに多い雑草」とある。笹のような細長い葉を持ち、どこにも見られるありふれた草。穂は5㎝ぐらいの房状になり、ネコなどをからかうのに使われる。  根は地中深く張っていて頑丈、小さな鎌ではなかなか切れない。うっかり見逃していると七月には穂を出してしまう。庭や畑でネコジャラシが風になびく情景は荒れ果てた家を連想させる。

 ツル草のヤブガラシはどう猛な草だ。地中に張り巡らされた根茎が、地上の隙を狙って出てきてツルを伸ばし、見さかいなく草木に絡みつく。
 見つけ次第ツルを摘むがすぐ出てくる。地下にヤブガラシ帝国があって、藪枯しの名前のとおりヤブや草木を滅ぼせという指令が出されているのか。
 隣の敷地に本部があるのかもしれない。スイセン、ヒヤシンスなど宿根草の間から出てくるので根絶は難しい。ブドウ科に属し、ツルや葉はブドウに似ているが、なかなか喰えない雑草だ。

 この夏も暑さが続きそう。いつの間にか赤い肉厚のスベリヒュが大きくなっている。秋の雑草と選手交代か。

 ネコの額ほどの土地でも雑草との戦いは際限がない。

(13・7・25)

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