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「800字文学館」

米国の底力

稲宮 健一

 本紙に添付されている画像は、終戦以前に米軍の航空機から撮像されたレーダ画像である。画像の中心は相模湖の上空付近、そこから関東平野全体にマイクロ波を照射して、地上から反射した電波を受信して、CRT上に映し出された画像である。マイクロ波であるから昼夜を問わず撮像でき、爆撃機は正確に東京を襲うことができた。残念ながら日本でも電探は開発されていたが、このような完成度の高いものはできなかった。
 レーダの開発は日米共になされていたが、米国では開戦後、MITを中心にして国の総力を挙げ行われた。その成果は戦後まもなく、MIT Radiation Laboratory Seriesとして28冊の単行本に編集され、マイクロ波工学の原典となった。

 緒戦は破竹の勢いがあり、ゼロ戦は敵なしの強さを誇った。侍に名刀が与えられようで、暴れまわれたが、その期間に相手はじっくりと構え、馬力の大きい戦闘機や、当時のハイテク開発(電子工学)に邁進した。レーダの成果はまず、索敵に効果を発揮し、総合的な戦力で、日本の戦力を消耗させた。

 遂に昭和一九年の終わりになると、この画像で見られるような映像を見ながら、本土を爆撃してきた。もうその時点では日本に戦力は残っていなかったのに、最後の一兵まで戦うと言って軍人は戦争をやめる決断が出来なかった。城を枕に討死するは内戦の理論で、国と国の戦争にこの理論は通用しない。軍人が始めた戦争を、民間人が消滅してでも続ける意義がどこにあったのだろうか。「神国日本は負けない」、「日本の原発は安全」と神話で思考停止した点に共通点がないだろうか。

 レーダ開発のリーダであるL.A.Dubridge は この Series の巻頭言で、本の各冊の執筆は各部門の熟練の専門家にお願いするが、開発の当たっては、表に名が出ていない多数の科学者、技術者の研究成果と、各人の密接な協力があったと記している。戦前言われていた、米国は個人主義であり、自由主義であり、纏まりがなく、軟弱であるなどと言われていた米国観が的外れであることが分かる。

(二〇一三・七・二五)

CRT:Cathode Ray Tube の頭文字、工業用ブラウン管
電探:レーダの日本名
索敵:海上など広い空間で、敵の航空機や、艦戦を検出すること

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