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「800字文学館」

ひとりよがりは

富岡 喜久雄

 宮崎駿の「風立ちぬ」を観た。宮崎作品は二人の孫娘にせがまれるのが恒例になっていたのだが、今回はこちらから二人を誘った。この作品は太平洋戦争でも名戦闘機と謳われた十二試艦上戦闘機、通称ゼロ戦の設計者堀越二郎と堀辰雄の小説「風立ちぬ」を素材に大人向きの作品にしたと言う。「風立ちぬ」はともかく、ゼロ戦とくれば関心が出て、空中戦をどんなアニメーションに表現するかと興味は募ったし、大人向けの作品だとしても、幼かった孫たちも今やそれぞれ大学と高校の一年生になっているからゼロ戦に興味はなくとも「風立ちぬ」には関心はあるだろうと、独り勝手に思い込んでの仕儀だった。

 いつも劇場は混んでいたから良い席取ろうと、NETで予約購入までして出かけた。案に相違し座席はガラガラ、観客は広い劇場にポツリ、ポツリである。

 話題作りが上手いジブリだから終戦記念日の八月に公開し、喫煙シーンの是非や作者の引退説まで持ち出して客寄せしていたのに、変だなと思った。それでもガラ空きの席をいいことに孫たちと遠慮なくポプコーンを頬張り、コーラーを飲みながら映写を待った。

 作品の好悪は個人差があるのは承知だが、やはりゼロ戦と甘口の小説を合わせるのは無理があったようだ。作者の思いが先走ってか、恋愛に比重がかかってしまい、かつての作品のような大空を自由に飛び回る開放感がなく、浅薄で湿っぽい人情劇になっている。楽しくなかった。

 観終わって孫たちに感想を聞いてみると、冒頭の長い震災シーンには戸惑ったし、ドイツ機ユンカースの良さも知らなかったと言う。愛情物語の方は、洋画でラブシーンを見慣れている筈なのに主人公達のキスシーンに違和感を覚えたし、ストーリーも感動的でなかったと言う。

 やはりこの作品は作者の独り善がりが強すぎたのだろう。

 大方の自伝が面白くないのと同様、物書き作業も「独り善がり」は自戒せねばとの思いが募った次第である。ならば止せとの声が聞こえそうだ。

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