海老蔵の助六
中村勘三郎と市川團十郎の亡き後、海老蔵が大活躍である。杮葺落六月大歌舞伎で『助六由縁江戸桜』の助六を演ずると言うので観に行った。この演目は何度も名優達によって演じられてきたもので、本来は父・団十郎が新装の歌舞伎座で演じることになっていたものだ。したがって「十二世市川團十郎に捧ぐ」というサブタイトルが付いている。海老蔵は「父はさぞ無念であっただろう」と父を偲んで舞台を務めていた。
物語は、江戸時代、遊郭吉原の絶世の美女揚巻という太夫と、彼女に惚れ込んで連日通ってくる意休という高級侍。そこに割って入った助六が揚巻をめぐって展開する。実は助六の目的は揚巻の気を意休からそらし自分に向けることであったが、本当の目的は意休の持っている刀にあった。この刀は行方不明の家宝の刀ではないかと詮議しに来たのだ。恋敵の意休に悪態をついて刀を抜かせようとするがなかなか抜かない。こういった駆け引きもあり単なる恋物語でなく筋を面白くしている。
配役は、揚巻に中村福助、意休に市川左團次。他に三津五郎、菊之助らも出演する豪華版だ。
見所は、揚巻が花道から入場する場面。豪華絢爛たる衣裳を身に着け、番頭、禿、新造ら十数人を従えて江戸浄瑠璃に合わせて入場してくる場面は圧巻だ。それに次いで助六が赤い襦袢、濃紺の着物、裏は真っ白、紫の鉢巻き。番傘で顔を隠して花道に登場。花道の終わり近くで唐傘を高く持ち上げ、足を踏ん張り、にらみを利かせ見栄を切る。この瞬間、客席から「成田屋」の声が掛かりやんやの大喝采。赤と紺と白のコントラストが見事だ。この瞬間を観るために歌舞伎座に来る客もいると言う。この演目はすべてに「粋」を具現化した江戸文化の極致であると言える。
私は四年前の暮れ、京都の南座で「年末恒例顔見興行」で片岡仁左衛門の助六、坂東玉三郎の揚巻を観た。この配役の方が海老蔵・福助コンビより素晴らしいという印象だった。海老蔵は未だ若いが、頑張っている。