作品の閲覧

「800字文学館」

メサイア

平尾 富男

 友人がクラシックの混声合唱団で長年活躍している。毎年その発表会には贈呈されたチケット持参で演奏会場に足を運ぶ。
 今回のコンサートは合唱団創設35周年を記念する公演とあって、座席数1,380の大ホールでの開催である。42名の市民コーラス団員とその関係者が、チケットを有償或いは無償で精力的に配ったお蔭だろうか、開演直前にはほぼ満席となった。
 演目はヘンデルの大作『メサイア』で、休憩時間15分を入れて2時間30分を超す演奏予定と案内されている。
 開演がアナウンスされると、入場したコーラス団員を背後に、小規模ながら本職の管弦楽団が並ぶ。楽器の音合わせが終わり、プロのソプラノ、アルト、テノール、そしてバスのソリスト4人が、舞台の袖から観客の拍手に迎えられて登場する。続いて指揮者が現れて、いよいよ本番開始である。
 2人の女性ソリストは、それぞれ真紅とクリーム色の肩を露わにしたロング・ドレスを着て、端正な居住まいで歌の出番を身動きせずに待っている。

 救世主を意味する『メサイア』は、ドイツ人のヘンデルが英国に帰化した後に、イギリス人チャールス・ジェネンズによる英語の作詞に曲を付けたオラトリオだ。歌詞の内容は、新旧の欽定聖書等から言葉を選び出し、キリストの生誕から復活までの生涯を3部構成で表すもの。
 演奏会場で配られたプログラムには、実際に歌われるオリジナルの英語歌詞と、その日本語訳が印刷されているのが嬉しい。
 有名なのは第2部の最後に歌われる通称『ハレルヤ・コーラス』で、クリスマスの季節には世界中で歌われる。英国では、神を称えるハレルヤの演奏部分で観客が全員立ち上がるという慣習があった。日本でもそれが踏襲されているらしいが、今回の演奏会では聴衆の起立はなかった。

 半世紀を超える昔に通っていたミッション系の男子高校で、隣接する女子校との合同ハレルヤ混声合唱に参加したことを思い出す。演奏を聴きながら知らず知らずにハレルヤを心の中で唱和していた。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧