K記者の告白
A新聞・K記者の署名記事「JR西の事故、消えぬ悔い」が目にとまった。
宝塚線事故では急カーブへの改修や過密ダイヤへの変更が脱線の遠因となった。その改修変更の際、JR西の幹部より取材した経験を語る。
当時、改修や変更を多くの利用乗客は便利になったと喜んだ。K記者自身もJR西の言をそのまま記事に載せ、世辞も述べた。しかし利便性向上の陰でどんな工事がなされたのかを確かめもしなかった。JRに安全性を質すべき記者として、職責を果たさず、悔いが残るという。
K記者からは私も原発事故や被爆経験について取材を受け、長時間にわたり二人で話し合ったことがある。考えのしっかりした四十歳代の好漢である。社説を読んだ私は一読者として彼につぎのようなメールを送った。
「社説を読みました。小泉元首相の脱原発発言と同じく、自己の良心を素直に公言する勇気ある記事と感心します。小泉元首相は3・11まで原発の安全性を頭から信じていたという。現役を退くと、社会全体を高所から公平、冷静に見渡せるようになりますが、現役の組織人は目の前の利害に目を奪われがちです。
その点、現役記者としての今回の反省記事には勇気を感じ、敬意を表します。さらに『安全はたやすく揺らぐ。…厳しい視線を不断に注ぐ』との決意表明は立派です。
機器やシステムの正常時の機能はその分野の専門的知見や判断力によってほぼ決まりますが、安全性にはさらに加え、専門性と無関係の直覚力が非常に威力を発揮します。その直覚力を養うには、機器やシステムの社会的位置づけ、置かれている環境、用いる人などに細心の注意を払い、門外漢、非専門家なりに対象物や現象をよくよく観察することです。
専門家や権威者の言うことを鵜呑みにせず、記者として厳しい視線を注ぎ続けて下さい」
K記者から返礼のメールも届いた。発信力のある彼のような若い記者を通じて、我々の経験を次世代に広く伝えることが、今の私の喜びである。