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「800字文学館」

化け猫

平尾 富男

 古い新聞記事を見ていたら、「猫が自分の子供と一緒にネズミの赤ん坊にお乳を与えて育てている」というのが目に入った。果たしてネズミの母親をその猫が食べたのかどうかは定かでない。
 その話を聞いて、二人の若い女性が「その猫えらいわねえ」と意気投合したのだが、二人の考え方はまるで違う。
 一人は、「どんな動物であれ、母親のいない乳呑児を見捨てるわけにはいかないという母性本能の表れね」と驚嘆する。
 もう一人が、「いくら好物のネズミとはいえ、あんな赤ん坊は小さくてまずそうだから、大きく育てて、出来れば太らせてから食べようという魂胆なのよね。計画性があって凄いわ」と宣ったのだ。

 この二人の女性の反応について、結婚前の息子さんを持つ中年の奥様方に質問してみた。「息子さんの結婚相手として、どちらのお嬢さんが望ましいですか」。ほとんどが前者を選んだ。曰く、「後者は冷酷で人情に欠けるから、姑にもどんな仕打ちをするか分からない。化けて出る猫のタイプだわ」。確かに「母性本能」を連想する方が理想的なお嬢さん像ではある。
 人間は豚や牛を飼育して食べる。それだけではない。今や日本人が食べるタイやハマチ、更にはウナギでさえも、養殖が多くなっている。はじめから食べる目的で育てているのだ。この話を先の奥様方に聞かせたらどんな反応をするだろう。「化け猫と人間さまは違う」と言うであろうか。

 これで思い出すのは、ド派手な衣装と風変わりなヘアスタイルで有名な女優のことだ。貧困に苦しむアフリカその他の後進国に出掛けて行って、子供たちに愛想笑いを浮かべる姿は、立派な博愛主義者として称賛されているらしい。
 その一方、真っ赤な口紅を付けて、横に大きく口を開けてよく喋るその女優を「化け猫」と呼ぶ視聴者も少なくない。痩せ細った幼子を抱き上げ、口を横に大きく開けて笑う姿をテレビの画面を見ていたら、「この赤ん坊、食べたらおいしそうだわ」という声が聞こえたとか。

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