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「800字文学館」

モスクワからルシンキへ(2)

都甲 昌利

 モスクワからやっとの思いでレニングラードに着いた。市内のホテルは帝政時代に建てられた貴族の名に因んだクラスナポールシキー。宮殿のような豪華なホテルだ。朝食は黒パンにバターにイチゴジャム、ヨーグルトに似たケフィールという飲み物。紅茶は砂糖ではなくジャムを入れて飲むのだ。
 朝食後、先ずは世界に誇るエルミタージュ美術館へ。ヘルシンキが控えているのでそんなには時間が取れない。観たいものがあった。ダヴィンチの聖母子画「聖ブノワ」と「リッタの聖母」だ。その他、ルーベンス、レンブラントやセザンヌ、モネ、ゴッホなど印象派以降の作品も豊富に展示されている。観光は帰りにすることにし、一路ヘルシンキに向かった。

 国境の町ブイボルグを少し過ぎたところに検問所があった。武装した国境警備隊員が出国手続きをする。車の検査はトランクは言うに及ばず車の下、座席の下など徹底的に調べる。あとは持ち物検査と身体検査。通貨申告はすべての通貨を申告する。再入国した時、多少の通貨が必要と思って300ルーブル程持っていたが没収された。ソ連では、脱国者と通貨の流出に特に神経を使っていた。

 検問が終わりやれやれと思い、再び車を走らせていたら、間もなくフィンランドとの国境が見えた。遮断機があり再び車種やパスポートの検問があった。これは第一の検問所から5,6分の所にあり、若し30分も1時間も経過して現われなかったら、捜索を始めるということである。逃亡者防止のためだ。
 遮断機が開きフィンランド領内に入った時は監獄から出所した気分だ(経験はないけれど)。入国は簡単だった。パスポートを提示すると入国印を押すだけだ。
 入国管理事務所にはコーヒショップがあり軽食も出来た。記念の写真と取ろうとしたが、ソ連領内にはカメラを絶対に向けるなと注意された。道路は舗装されて分離帯、道路標識もあり街灯も付いて運転が楽だった。無事、ヘルシンキ市内のホテルに着いた。

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