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「800字文学館」

素敵なレディに囲まれて

首藤 静夫

 気のおけない友人のKさんが私に言った。「家内に話したらね、首藤さんって、ちょっと変わってない?と言うんだよ」
 これには私も苦笑した。K夫人から変人にされているのは、エアロビクス(エアロビ)のためである。

 エアロビを始めて三年になる。地域のスポーツセンターで週に二日汗を流す。よく続いていると自分でも思う。
 エアロビは音楽に乗ってステップを踏む有酸素運動である。前後に左右にリズミカルに動き回り、休憩はほとんどない。結構ハードな運動だ。レオタード姿は見かけないが、それぞれお気に入りのウエアで踊っている。

 生徒は約六十名で、若い人からシニアまで年齢層は広い。その中で男子はたいがい私一人なのだ、それも六十歳台の。男子も時々入会するのだが、しばらくするとなぜか来なくなる。また私一人になる。女性ばかりのムンムンする熱気の中で「よくやるわね」とK夫人があきれるのは当然なのだ。

 女の園に「闖入」した当初は戸惑った。今でも多少気恥ずかしい。だが、それが長続きしている理由かもしれない。周りに慣れすぎてくると、男臭さの悪い面が出て態度・話し方が無遠慮になり、とかく嫌われるもとになる。

 それにしても毎回苦労することがある。
 それは踊る時の目のやり場である。なにしろ前も横も女性ばかりだ。前の人たちをお手本にして踊るから、彼女たちのウエストやらヒップやらに自然と視線が行くのだ。決して故意にではない。初めのころ、私の前方だけいつも空いているので不思議に思っていた。ある時、(さては!)と思い至った。
 最前列でやればいいのだが、ステップを間違えると後ろの人の迷惑になる。やむなく後方で視線をやや上げたり横にそらしたり……。また、疲れてくると前の人をボーッと眺めているかも知れない。地域でのことゆえ噂にでもなったら大変!変人どころか変態にされかねない。

 こうして気を遣いながらも、レディの中に立ち交じって踊るのが楽しくて、今も通っている。

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