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「800字文学館」

冬の旅1 凍てついたル・ピュイ・アンバレイ

志村 良知

 キュッキュッと足の下で雪が良い音で鳴る。家の近所の公園にある百葉箱まで行き、懐中電灯で照らすと、温度計は氷点下18度を示していた。1996年の暮、ヨーロッパに強力な寒波が居座り、お隣ドイツでは戦後初めて全土がホワイトクリスマスを迎えたと伝えられた。

 その寒波と雪の中、フランス南西部をドライブした。
 最初の目的地は中部フランスのル・ピュイ・アンバレイ。
 フランスを南北に走る幹線である高速六号線を南下、リヨンで分岐し西に向かう。高速道路から一般道に入ると、除雪の仕方が手抜きになったが、スノータイヤは良く利き、怖くはない。
 夏なら行く先々で探す宿も、寒空に野宿の危険は冒せないので、全部予約した。ホテルのある町でのピンポイントの場所探しは、ミシュラン・ガイドの市街地図を使う。カーナビ以前の古き良き時代の方法である。

 翌日は大みそか、ル・ピュイの町に出かけた。
 この町は古い火口原に出来た町で、市街地に溶岩の塔が二つ聳えており、一方には修道院、もう一つにはカテドラルが建てられている。遥かスペインに向かう巡礼の道のメインルートの一つで、宗教色の強い町である。
 大みそかとあって、店も観光スポットも閉まっているところが多かった。カテドラルは開いていたが、人っ子一人おらず、森閑としていた。溶岩塔を登りつめると、クリミア戦争の戦利品の武器を溶かして作ったという大きな赤いマリア像が青い空に聳えている。像は胎内巡りができ、顔の所まで登れた。
 それにしても寒い。早々に降りて、小さなカフェを見つけ、熱いシチューとパンの食事にありつく。時節外れの、それも異邦人の観光客に驚いたりあきれたりのおかみさんが、写真を撮るならここからというスポットと、開いていそうなル・ピュイ名産のレース店を教えてくれた。噴水が凍りつき、大きな氷塊と化して立つ公園の温度計は氷点下12度。車で、町を見下ろせるという丘に登る。ル・ピュイは眼下に凍てついていた。

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