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「800字文学館」

戯れ言

内藤 真理子

 細胞を弱酸性の溶液に浸すだけで、受精卵に近い「万能細胞(STAP細胞)」を作りだした研究チームの主導者、小保方晴子さんのことが新聞の一面を飾っている。
〝んん?これって、神の領域ではないだろうか″
 細胞にストレスを与えるだけで、万能細胞が初期化されてどの臓器にもなれるとか。一人の人間全部を創造することも可能なのではないだろうか。
 研究成果はまだマウスの段階でヒトの体細胞でも同様に初期化が起きるかどうか、なぜ弱酸性の溶液に浸すと効率が高いのか、などの解明はこれからだと言うが、実験を繰り返し、たゆまぬ努力をすれば、その成果は、神域に近付いても許されるのだろうか。

 初めの人間を、バイブルのエホバ神は「土の塵を以て人を造り、いのちの気をその鼻に吹き入れたれば、人すなわち生霊(いけるもの)となりぬ」としるしているが、中国の神話では、女ァZ(じょか)という女神(じょしん)が、土の上の塵ではなく、肥沃な黄河流域の黄土を手で丸めて人間をつくった。黄土地帯なので材料には事欠かないが、それだけに忙しい。彼女も初めのうちは、一つ一つ丹念に人間を造っていたが、終いには手間を省いて、まず泥んこにこねた黄土の中に荒縄をつき込み、いい加減かき回してから頃合いを見て縄をひきあげる。その引き上げられた縄の先からポタリポタリと地上にこぼれ落ちる泥のかたまりを、そのまま人間に仕上げることにした。
 このお手軽ぶりが〝たった三〇分弱酸性溶液に浸して、簡単にできた万能細胞″と、私の頭の中でダブってしまった。
 手間を省いた泥んこ製のマスプロ人間は、丁寧に手でまるめた特製人間とは、おのずから出来が違うと神話にある。
 してみると、万能細胞を作製した小保方晴子さんは、さしずめ、ハンドメイドで丁寧に製造された人間の子孫か、はたまた女ァZの同僚の女神に違いない。
 では、三〇分弱酸性溶液に浸して作られた細胞でできた身体の部品は、粗悪品になってしまうのでは……。

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