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「800字文学館」

出たとこ勝負の寺巡り

浜田 道雄

 このところ奈良を旅することが多い。かつて人々の祈りの場であった奈良の寺々を訪ねて、祈りの媒体となった仏像たちに会いたいからである。だが、旅のまえに準備をしたり、計画を立てたりしないから、行った先で手違いなどしょっちゅう起きる。

 昨年の旅もそんなだった。大学時代の友人と四日市近くの温泉に行った帰り、ふと思いついて奈良を回ってみることにした。薬師寺の西塔が再建されて久しいのに、まだ東西両塔の並び立つ姿を見ていないことに思い至ったからである。
 翌日近鉄電車を乗り継ぎ、奈良まで足を伸ばしたが、結局二つの塔を擁する薬師寺の姿を見ることはできなかった。東塔は解体修理中で、全身を鉄骨の足組とテントに覆われていたのだ。
 工事が終わるのは数年先。二つの塔が西の京に再びそびえ立つのは、私が八十歳のときになる。「そんな歳まで生きていられるかね?」とぼやいてみてもはじまらない。五年も前からの工事を知らなかった、自分の迂闊さが悔やまれる。

 一昨年にも似たようなことがあった。東大寺の戒壇院と奈良博物館を訪ねる奈良への旅で、宇治で途中下車した。急に平等院も訪ねてみたくなったのだ。だが、平等院の受付で「先月から解体修理がはじまり、いまは拝観できない」と告げられ、鳳翔館を訪ねただけで退散した。おまけに、翌日奈良博物館に行ってみると、その日は月曜日で休館日。

 といって、奈良への旅がいつも無駄足ばかりとはかぎらない。一昨年は、これまで行く機会のなかった新薬師寺と頭塔を訪ねたし、今回も期待の薬師寺ではしくじったが、唐招提寺ではすばらしい仏像たちに会うことができた。また、今度こそ開館していた国立博物館で、所蔵の仏像群に会い、十分堪能した。

 それにしても、こんな手違いばかりしているから、今後は準備をするかというと、そんな気はサラサラない。「出たとこ勝負の旅も思いがけない収穫があって、面白いじゃないか」と、かえって開き直っている。

(二〇一四・〇一・二九 熱海にて)

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