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「800字文学館」

一足お先に「春立ちぬ」

首藤 静夫

 当ペンクラブの句会に昨年加えて頂いた。5,7,5と指を折りつつ、1字多いなあ、あっ季語を忘れたと騒いでいる。
 句会で面白いのが季節のとらえ方である。ひと月からふた月先を詠んでいくのだ。今年の初句会は正月の8日だった。席上、2月初めの句会の兼題は「立春」と決まった。兼題とは予め与えられる次回のお題。暦の上では時宜を得たお題といえる。
 しかし正月早々次回は立春といわれるのも変な気持だ。2月4日の暦の上の立春までひと月、それから実際に春を感じるまでまたひと月。2ケ月も前から春を迎える心の準備にかかるのだ。その手前にくる小寒・大寒の句も並行して作るだろう。季節の順序通りに句ができるとも思えない。

 それでも、俳句のお蔭でこの冬は、季節の感じ方が少し変わってきたように思う。冬の寒さにしても、この寒さを句にできまいかとか、小寒や大寒にぴったりする情景は何だろうかと考える。冬でも暖かい日なら春待つ気分を何に託そうかなど思いめぐらす。寒さも一様でなく日々変化していることが多少実感されてきた。
 こうして季節を感じながら、さらに先取りして句にするわけで、戸惑いもあるがなるほどと思うことも。冬至を過ぎると日脚が少しずつ伸びるから1月・2月が寒いといっても明るい兆候はどこかにある。そこを見つけて句にするのである。

 夏場は反対に淋しい。7月初旬の句会では、翌8月の兼題は例えば「立秋」となる。子供たちの夏休みや川開きなど、いよいよ夏だ!と実感されるのが7月中旬。汗を拭いつつ真夏の句を作る一方で秋に向かう兼題句を考えることになる。
 そして8月初旬を過ぎると、太陽に焼かれてとか夏山に白雲とか、真夏の気分で詠むのは野暮だ。暑さをぐっと我慢して忍び寄る秋をどこかに探すのだ。今と違って暑さに苦しんだ昔の人は、早く秋に逃げ込みたかったのかも知れない。
 初学の私は理解も浅い。それでも句会を楽しみにしている。

パスポートに新たな十年春立ちぬ しずを

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