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「800字文学館」

冬の江差点描

大月 和彦

 JRのフリーパスを使って北海道江差町へ行った。

 津軽海峡トンネルを出て、木古内駅で江差線に乗りかえる。渡島半島を横切るこの路線を一両だけのワンマンカ―が走る。低い山、ナラやクヌギの林など本州と同じ景色が続く。一時間ほどで海岸に出て、北上するとすぐ終点江差駅。
 5月に廃線になるというこのローカル線の沿線の雪原や林間には、重そうなカメラ機材を抱えた「撮り鉄」たちが群がっていた。江差駅ホームでも雪の付着した車両にカメラを向けている一群がいて、折り返しの列車で帰って行く。

 江戸時代に北前船で賑わったこの町には、繁栄の跡を残す豪商宅や蔵、幕末の北方探検家松浦武四郎や旅行家菅江真澄の日記に出てくる寺社が残っていた。

 戊辰戦争中に江差沖で沈没した幕府の軍艦開陽丸を復元した記念館は、冬なので休館中。
 江差追分会館だけが開いていた。畳敷きのホ―ルで連れの友人と二人だけにビデオを映してくれる。
 江差追分は、ニシン漁で賑わったころ、信州追分の馬子唄が越後から北前船によって伝わり、独自に発展したものといわれる。
 唄は難解で分かりにくい。本唄は「かもめの鳴く音に ふと目をさまし あれがエゾ地の 山かいな」の27字だけ。これに前歌と後歌が付く。唄い方により流派がいくつもあって、競い合っているらしい。

 宿で教えてもらった居酒屋に行く。カウンターの向こうには元気な主人と奥さん。
 外は寒いが、やはり生ビールから始める。
 刺身の盛り合わせは、奥尻のウニ、ホタテは粒が大きくぷりぷりで甘い。透き通った肉のタコは柔らかく甘い。甘エビ、サーモンのルイベ、ホッキ貝は歯ごたえがいい。ホッケは塩焼きを頼む。塩加減が絶妙で、脂がのった肉はこまやかだった。この魚は、かつては獲れ過ぎたため猫マタギと軽ろんぜられていたが、味は高級魚だったのだ。
 ニシンはここでは全く獲れない、留萌辺で少し獲れるのは、肉が柔らかく、昔の味はしないと主人は言う。

 熱燗の地酒がすすむ。滑りやすい雪道をおぼつかない足取りで宿にたどりついた。

(14・3・13)

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