超成熟社会の発展のために(その四)
日本が世界で一番速く超成熟社会を体験し、その経験は後続の国々への貴重な贈り物になる。平和な社会の継続があって、始めてこの話が成り立つ。
戦争前後の時代から、日本の置かれた状況を俯瞰した本を書いたイギリス人記者がいる。滞日五〇年、H・S・ストークス。元「フィナンシャル・タイムズ」東京支局長である。彼は私と同い年で、幼少のころ、地球儀の世界地図のピンク色の所が総べて大英帝国の領土と教えられてきた。それが、今度の戦争で、あっという間に日本軍に占領され、後、独立を果たした。数百年に渡って搾取した植民地が失われたので、西欧は日本に侵略されたと思った。しかし、今から思えば、西欧がもともと植民地としてアジヤ諸国を侵略したので、日本は西欧を追い出し、地域の独立を助けたという歴史観だって成り立つと述べている。
さらに、生前親交のあった三島由紀夫が主張した古来からの日本の文化の伝統を挙げ、現在の日本は敗戦の思想的な抑圧から抜け出ていない。敗戦時に負った戦争当事者の罪悪感と、それを必要以上に強調した占領政策が今日の日本を作っている。近隣諸国はそれを見透かしてか、戦時に作られた誇大妄想の教宣情報を振りかざして叫んでいる。本来はもっと前から、正確な日本の立場を世界に向けて発信すべきであった。既に既成事実と思われていることをすぐにひっくり返すことは難しいが、一つ一つ丹念に英文で反論し、世界に向け自己主張をすべきと結んでいる。本の中で、米国をかなり批判的に見ている点、英国の視点は違うと感じた。
大筋で共感できるが、自己主張の強化は周辺諸国といらぬ争いを招きかねない。人海戦術で不法占拠を示唆する相手に対しては、警察力の強化に類する武装強化が必要であろう。しかし、国対国の防衛力は集団的安全保障に頼らざるをえない。今更狭い国土に秘密裏に弾道弾の格納に適する所もない。争いを避けるため、近隣諸国には正確な歴史認識を持ってもらいたい。
(二〇一四・二・二七)