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「800字文学館」

九州ってすごい(二)

小寺 裕子

 我々が正月二日に泊まったのは、別府を見下ろす明礬温泉。淡い青みを帯びた露天風呂に黄色いザボンが浮かんでいるのが洒落ている。東京だと文旦とも呼ばれ、高価な果物だ。これで一人二万円。翌日から二泊した黒川温泉は三日が二万余。三日までは年始特別料金だというので、安さに驚く。四日は一万四千円と申し訳ないくらい安い。
 七人で合計四泊したので、格安航空券を入れても箱根や伊豆に行くより安くて済んだ。

 二日は宇佐神宮に参拝した。同じ八幡宮の鎌倉と比べても、植生の違いなのか、明るくおおらかな雰囲気である。古事記の時代を彷彿させる。菱形池には石橋が架かっている。
 実は道中、心惹かれたのが護岸工事をしていない自然の川と数々の石橋であった。何気ない田舎の景色が、アーチ橋によってキリッと引き締まる。
 後日調べてみると、江戸時代に全国で造られた石橋は四百十八基で、そのうちの四百が沖縄と九州にある。その中でも大分には多く、その後造られた物を含めると五百基が現存し、台風などに耐え、現在も使用されている。乱積みの橋も大小の石を隙間なく埋めており、職人の技が生かされている。
 石というと国東半島や臼杵の磨崖仏は有名である。時代はずっと前ではあるが、やはり石工の文化が途切れず継承されていたのだろう。
 このようなことを心に留めていると、日経新聞の「筑後の石工の史石巡り」という文化欄が眼に飛び込んできた。
 南筑後の石造物を担った櫟野石工について調べてきた元小学校の先生が寄稿した記事だ。この記事にも九州の石造物は凝灰岩が原料だと書いてある。九万年前の阿蘇山の大噴火によってできた岩だ。
 そう考えると、阿蘇山なしの九州は想像できない。

 旅の楽しさは出かける前の下調べが三十、実際の旅が五十、帰ってからも二十くらいと思う。見逃したものを次に見る楽しみは旅のおまけだろう。

2014・2・13

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