作品の閲覧

「800字文学館」

仁王像の解体修理

池田 隆

 国宝修理所である(財)美術院を訪れ、解体修理中の仁王像を見学した。工房に入ると、一対の阿形像と吽形像が解体され、破片まで含めて数百の部材が整然と床に並べてある。
 修復責任者のY技師によると、舞鶴に在る西国二十九番札所松尾寺の仁王像で、東大寺南大門の有名な仁王像と比べ、三分の一以下の大きさだが、姿や作風がよく似ていて、学問的にも興味深い仏像とのこと。しかし日本海側の厳しい風雪で痛みが激しい。部材に最初の制作年号を示す墨書は見つからないが、前後二つ割れの一体構造の胴体部は鎌倉後期以前を、腕の円形嵌合いは鎌倉前期以降の制作を示す。何カ所かで白い表皮と内側の赤い部位が残っており、年輪年代測定法を用いれば、伐採の年と場所を特定できるだろう。
 過去に二度の修復を行ったことが、部材裏側に記された墨書から分る。その修復に膠のほか、釘や鎹(かすがい)が多用されているが、金属と木部の接触面が黒く酸化している。今回はそれを除去した上で可能なかぎり漆で接着し組立てたい。漆ならば千年以上の耐用年数がある。
 などなど、文化財の修復技術について興味深い話を聞かせて貰ったが、最も感銘を受けたのは、Y技師の次の言葉である。
「組立工程に入る前に、この像が如何なる時代に、如何なる場所で、如何なる人によって、如何なる材料と方法で作られ、如何なる環境条件のもとで祀られ、如何なる災害などに遭い、過去に如何なる解体修復がなされたか、解体して得られた知見をもとに、その履歴を徹底的に細かく推定していく。修復にとり最も重要な作業と言える。
 現在その履歴を頭の中で必死に構築している最中、それが終れば、具体的な修復法は自から決まっていく。時間や金を気にすることなく、職人として後世に恥じない修復を自らの手で行ってみせる」
 技術者や職人が対象物の身になって正しく思考するようになれば、超一流である。Y技師がまさに現代の名工、名仏師、名技術者に見えた。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧