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「800字文学館」

ボスポラス海峡をつないだ日本

野瀬 隆平

 海面近くから仰ぎ見る巨大なつり橋は、頭上に迫ってくるようだ。ボスポラス海峡を巡る遊覧船のデッキに立っている。
 かつて勤めていた会社が四半世紀ほど前に建設した橋だ。イスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を結ぶこの橋は、長さが1,510mで、8車線ある幅が39mのつり橋である。

 船内のスピーカーからは、ガイドの案内が流れてくる。
「この橋は日本の○○によって建設されました」
 と何度も繰り返して説明する。日本人の客を意識しているのだ。そのたびに会社の名前が繰り返されて、少々おもはゆくも誇らしい気になる。
 この橋の建設に直接かかわったわけではない。しかし、同じころにトルコ政府からの要請で、造船所を建設するプロジェクトがあり、しばしば当地を訪れていたので、想い出深い橋なのである。
 これまで、地上で橋を眺めたり、車で渡ったことはあるが、下から見上げるのは初めてであった。
 橋のふもとから出発した遊覧船は、海峡沿いに並ぶ歴史的な建物や、金持ちの別荘などを眺めながら、イスタンブールの旧市街へと向かう。
 ガラタ塔を右に見上げ、左舷側に昨日訪れたとトプカプ宮殿やモスクの尖塔を眺めているうちに、船はガラタ橋の近くにある船着き場に到着した。

 ここから、シルケジ駅にバスで移動。かつて、オリエント急行が、パリ、ヴェネツィアを経由してたどり着いたヨーロッパ東端の終着駅である。しかし、今回はここから更に東へと、完成したばかりの海底を走る地下鉄に乗って、アジア側に渡るのだ。
 この地下鉄、途中駅であるシルケジから乗るには、海底に近いホームまで、かなり深くもぐらなければならない。エスカレーターを何度も乗り継いで、やっとホームにたどり着く。海底部分の一駅間を4分ほどで走りぬけて、アジア側の街、ウシュクダラに到着した。

 実は、この海底トンネルも日本の建設会社が掘ったものである。四半世紀を経て、地上と海底の両方で、日本がトルコの領土を一つに結ぶ事業を行ったことになる。

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