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「800字文学館」

ケンチャナヨ?(大丈夫?)

中村 晃也

 韓国の客船セマウル号の沈没事故はまことに痛ましい。が、悲劇の根本原因は、幾重にも重なったコンプライアンス意識の欠如と、李氏朝鮮時代からの腐敗した官僚体制にあるのではないか?

 私は二年続けて、韓国出張時に大きな事故とすれ違ったことがある。
 一回目は、一九九四年の十月、ソウルから釜山への移動の日に、ヤケに多くのヘリコプターの飛行音が聞こえた。
 釜山に着いてからタクシーの運転手から漢江にかかる聖水大橋が崩落したことを聞いた。中央部の四十八メートルが突如崩れ、通行中のバスや乗用車が河に転落したというのである。手抜き工事が主因で、鉄骨やコンクリートが十分量使用されていなかったという。
 くだんの運転手が「これから渡る橋は古いけど大丈夫ですよ。日本の工兵隊の工事ですから」と言った。そこには、日本品質にたいする絶対的な信頼があった。

 翌年の六月、帰国便を待っている時、ソウル空港内のテレビで重大な事故を報道していた。市中央部の有名デパートが北朝鮮に爆破されたとのこと。
 帰国後、先日の訪問先の会社に電話し、お世話になったお礼方々事故の様子を聞いた。
 五階建ての三豊(さんぶん)デパートの半分が突如崩壊して、死者は約五百名、負傷者は約一千名に達する模様だとのこと。なんでも設計図と異なり、あるべき柱の数が足りないまま五階部分を増築して、更に数十トンの冷房用の冷凍機を屋上に設置したのが原因らしいとか。数日前から屋上にヒビが走っていたとの係員の報告を上司が無視したとか、北朝鮮のテロではなかったらしい。

 二年後の五月に釜山のロッテワールドでビルが崩壊したが、出張中ではなかった。

 大胆なまでの手抜きと、賄賂に裏打ちされた監督機関の無責任体質。全て自己本位制で、都合の悪いことはなんでも他人のせいにする、驚くべき国民性を是正できなければ、未来を語る資格はないと思うのだが…。
 あの国はケンチャナヨ?

二十六年五月

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