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「800字文学館」

犯人(ホシ)はどいつだ

首藤 静夫

 今年もやられた! 2年続きだ。それなりに用心と防御をしていたにもかかわらず……。
 わが家ではメダカを飼育しており、初夏はそれが孵化し繁殖する大事な時期である。黒、白、青、緋など色の違いにより五鉢に分けて玄関先で飼育している。
 昨年夏、そのうちの3鉢が被害にあった。朝、気がつくと鉢には数匹ずつしか残っていないのだ。仕方なく残ったメダカから孵化させて、やっと元の状態にこぎつけた矢先である。
 今回は2鉢がやられた。やはり夜陰に乗じての仕業である。しかも昨年同様に緋・青と貴重なものばかり。緋色は1匹しか残っていないので孵化もできない。
 今年はシーズンを前に、門扉とあと1ケ所に侵入防止用チェーンを付けた。夕刻にセットし、朝はずす。しかもチェーンには鈴をつけている。すべて妻の考えである。飲んで遅く帰宅した時など、しゃがみ込んでフックをはずし、内に入ったあとリセットせねばならない。そのたびに鈴が鳴る、まるで私が犯人みたいに。

 敵はそれをものともせず、またやってきた。チェーンを外した形跡はない。鉢のまわりも荒らされていない。犯人は何者?
 容疑者A 人間。これは妻の説だ。貴重な種類が狙われたことと荒らした痕跡がないことがその根拠だ。しかし、メダカくらいでわざわざ防御チェーンを乗り越えて侵入するだろうか?
 容疑者B カラスやセキレイなどの鳥類。子育てのこの時期、忙しそうな姿をよく見かける。鳥なら魚を獲る名人だ。しかし、鳥が夜陰に乗じてやるだろうか? 明け方にしてもメダカはまだ水草の中に潜っている。それを見つけられるのか?
 容疑者C 野良猫。何年もみんなで可愛がっている「地域ネコ」がいる。これが鉢の水をしばしば飲んでいる。しかし、水の苦手な猫が鉢底を浚うだろうか? まわりの人はすべてこの猫の弁護団だ。
 こうしてご近所も巻き込んで犯人捜しは納まる気配がない。妻が、今度は鉢にかぶせるネットを買ってきた。わが家のガードは固くなる一方だ。

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