老婆心
トルファンやウルムチでウイグル族と漢民族との対立によるテロがあり、大勢の犠牲者が出たというニュースを見て、十年前に観光旅行した時の事を思い出した。
ツアーガイドは若い垢抜けした漢民族の女性で、新疆ウイグル自治区は後から中国に併合されたと説明をした。ウイグル族のことも話題にしたが、日の出の時間が二時間も違う僻地で環境があまりに違うせいか、ガイドの言葉から、他民族同士、相容れないものがある印象を受け、少々見下しているような感じもした。
トルファン盆地の西端に、二本の河跡に挟まれて交河故城があった。
周りには大きな木々が茂っているのだが、そこにそびえる交河故城には草木が一本もなく軍艦の形をした土の塊に見える。年間降雨量が一六ミリ、その上海抜マイナス一五四メートルの盆地は気温が高く、瞬く間に水が蒸発してしまうという。
トルファンの緑は、すべて天山山脈の雪解け水を、カレーズという縦横に張り巡らせた地下水路に流して水の蒸発を防ぎ確保した貴重な水で支えられている。それゆえ、高さ三〇メートルの台地にある軍艦のような故城は、人が住まなくなると途端に土の塊になるのだろう。
からからに乾いた交河故城の遺跡の一郭、一般庶民の居住区は、黄土の台地を彫り込んで造られていた。
すべてがハンドメイドで、台地を掘り、細い路地を造り、家跡に入ると梁や煙突、かまどの跡もすべて土製の手作り彫刻。これぞ庶民の努力の跡である。何本もある井戸は三〇メートル下を流れる川の深さまで掘られたという。こうした方法で造形された大規模な町は古代遺跡にも類例がないそうだ。
過酷な環境の中でウイグル族の先祖たちの愚直ともいえるようなひたむきな努力の跡が垣間見える。
そしてカレーズを縦横に造り、守っている人々とも相通じるものがあるのでは…。
現在、新疆ウイグル自治区の四〇パーセントは漢民族が占めているという。
漢民族もウイグル族と共に、苦楽を分かち合えたら良いのにと思う。