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「800字文学館」

梅雨の夜の奇想

川村 邦生

 誰しもが不愉快な梅雨。いっそのこと原因の梅雨前線を消してしまうことは出来ないか。実現可能性はほとんどない夢の話だ。方法は世界の屋根、ヒマラヤ山脈を削って低くする。
 梅雨は大陸性高気圧と太平洋高気圧の間に前線が居座ることから起きる。大陸性高気圧が出来る原因は、ジェット気流がヒマラヤ山脈にぶつかって分かれた空気が乾いた偏西風とともに東に流れ、その北方に形づくられることだ。ジェット気流がそのままインドから南に抜けてしまえば、大陸性高気圧が発生しなくなり不愉快な梅雨は起きない。ただし気候激変をともなう地球大改造となるので、世界中どこからも絶対に賛同されず実現可能性はゼロだ。

 わが国だけで出来ることは何だろう。梅雨は恵みの雨をもたらすもので避けずに鬱陶しさを我慢し、その後に来る酷暑への対策を考える。
 海辺の地域は海風のお陰で多少なりとも不愉快さを下げられている。一方内陸はそれが難しい。毎年夏になると東京で問題になっているヒートアイランド化についてある学者は、東京湾岸に次々と建設されている高層ビル群が湾を渡ってくる涼しい海風を遮り、ビルの背後の地域にフェーン現象を起こし気温を2―3度高めている、加えてゲリラ豪雨を引き起こしている原因と報告した。すなわちわざわざ海風を遮断して都心部を内陸性気候にしている。

 そこで湾に注ぎこむ目黒川、隅田川等河川の両岸に建つビルを、川に直角でなく斜めに建てることで、川を上ってくる海風を川から街中に呼びこんだらどうかと検討された。残念ながらその後新たな進展は聞かない。どこからか圧力があったのか。
 ひょっとして東京湾岸の再開発は、酒税で荒稼ぎしようとする徴税当局の陰謀ではないかと疑ってしまう。
 サラリーマンの夜の聖地、新橋・丸の内界隈をさらに灼熱のアスファルトジャングル化する。そして暑さしのぎで帰宅前にちょっと一杯という楽しみを増加させ、酒税を増やすのだ。鬱陶しい梅雨の夜の奇想だ。

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