作品の閲覧

「800字文学館」

ユダヤ人の教育

大平 忠

 ノーベル賞の過去の受賞者数を調べると、ユダヤ人が略20%を占めるという。
人口は、世界各地に住むユダヤ人を合計しても1500万人に足りない。ユダヤ人の目覚ましい活躍のよって来る所以はどこにあるのだろうか。DNAが優秀だとしてもそれだけでは説明がつかない。気になって調べてみた。結論として、3000年変わらぬ幼児からの教育に秘密が潜んでいるようである。
 ユダヤ人の家庭では、子供が3、4才になると旧約聖書冒頭のモーゼの5書を声を出して読ませる。モーゼの言葉を朗唱の反復によって心に焼き付かせるのである。
一方、伝承された賢者の律法は母親が語り聞かせ子供からなぜと問わせる対話によって教える。学校では、教師は問いかけて生徒に考えさせ質問させる対話問答方式の教え方だという。ユダヤでは「良い教師とは生徒に良い質問をさせる教師」という言葉があるとか。
 朗唱方式で理屈抜きに基本の規範を教え込むやり方は、論語の素読とも会津の「什の掟」の教え方とも共通している。しかし、ユダヤでは朗唱方式に加えて子供に考えさせる対話方式を併用しているところが肝要であろう。
 ユダヤ民族は、過酷な歴史を歩んできた。紀元後だけでも1900年にわたる差別と迫害の中で流浪の時代を生き抜いてきた。土地の所有は許されず職人のギルドからは閉め出された。行商と金貸し業で財産を築いてもいつ剥奪されるか分からなかった。生きるための最後の拠り所は個人の知恵しかなかったのである。
 モーゼの5書からは社会で生きる基本ルールを学び、賢者の律法からは問答形式で考える力と知恵を身につけたのであろう。これらの教育によって培われた人間力が、いかなる分野においても試練に耐え深く考える人間を形作っていったのではないだろうか。
 日本でも、近年は暗記教育から考える力をつける教育へと変化がみられる。少子化の時代、一人一人が強くなっていって欲しいものである。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧