リンゴ「ふじ」
リンゴは人類史上最も長い間愛され続けて来た果物である。
先ずは、この世で初めてアダムとイブが食した「禁断の果実」。これがリンゴであったかどうかの確証はないが、何故か人類最初のカップルを描いた西洋画の多くには、リンゴ、或いはリンゴらしき果物を認めることができる。
イブが食べたリンゴは乳房となったそうだが、アダムは喉に詰まらせたらしい。西欧では、男にある咽頭隆起を「アダムの林檎」と言っているが、余り目立たないとは言え、女性にも咽仏(イブの林檎?)はあるのだ。
その後歴史は下って、ニュートンが「万有引力の法則」の発見に一役買ったり、ウイリアム・テルが自分の息子の頭上に置いて悪代官退治に利用したりした。戦後の日本では『リンゴの唄』が、第二次世界大戦からの復興への期待の象徴となった。ビタミンが豊富で、"An apple a day keeps the doctor away. "という諺もあるから、果物の代表であることは間違いない。
明治以降になってリンゴ栽培が行われるようになった日本では、青森が最大の産地だ。年間生産量85万トンのおよそ半分が青森県内で作られている。出荷の時季は10月上旬の「津軽」に始まり、「千秋」、「王林」と続く。「国光」と「デリシャス」を交配して作られた代表的品種「ふじ」が味わえるようになるのは11月中旬から下旬だから、雪に閉ざされる前に大急ぎで摘まなければならない。
今から15年前に脱サラして、奥さんの実家のリンゴ園経営を引き継ぎ、誇りある産地の更なる繁栄に努力している友人を、青森県黒石市に訪ねた。6月初めに、新緑の木々の間に残雪模様の美しい姿を見せる津軽富士を目の当たりにすると、「ふじ」はリンゴの中の「富士」だと確信できる。
命名の由来が日本一の代名詞である富士山とも、日本一の美女・山本富士子(既に旧聞に属するが)とも言われているが、津軽の藤崎という所で品種改良されて出来たと言うのが本当なのだ、と友人は主張する。
弘前駅のホームには巨大な「ふじ」の置物が置かれていた。