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「800字文学館」

小学生に語り継ぐ

池田 隆

 小学六年生の孫の先生から私の被爆体験をクラスで話して欲しいと頼まれ、学校に向った。大学生や大人に対する講話の経験はあるが、大勢の小学生相手に話をしたことはない。
 彼らの関心を一時間以上もつなぎ止められるだろうか、不安が過ぎる。自分の考えや感情を抑え、被爆時に見たこと、感じたことを、そのまま語り継ぐのが「語り部」の役目と思い直し、淡々と話し始めた。
「私は小学一年生の時に長崎で原子爆弾の被害に遭いました。今日はその時の話をしますが、ところで、『原子』って何か、説明できる人、手を挙げて、……」と切り出していく。
「お隣の二階の縁側で友達と将棋をしていた時です。突然、ピカッ!と強い赤紫の光が視界をふさぎ、つづけてドーンという物凄い音が響いてきました。窓ガラスは粉々になって飛んで来ます。座敷にあった置物は外に吹き飛ばされる。私は急いで自宅に戻ろうとしましたが、爆風が吹き上げ階段を下りられません。……」と本題に入ると、途端に皆の目が此方に注ぎ、眩しい。
「私の家は爆心地から3.5㎞に在りましたが、その前を爆心地近くで被爆した人が、ぞろぞろと列をなして歩いて来ます。どの人も服が切れ切れになり、赤く焼け落ちた皮膚にこびり付いています。まるで夢遊病者か幽霊のようです」と、身振り手振りを加えて語り続けた。

 それから数日後、生徒全員の感想文が手元に届いた。その中から、「テレビや漫画でなく、実際に体験された方から直接話を聞き、戦争や原爆の怖さがよく分った」、「将棋相手のお友達が一瞬で父親とお姉さんを亡くされた話を聞き、一寸した偶然で人は助かったり、死んだりする事が分りました。自分が今生きているのは凄いことです」等々。私が伝えたい事を皆はよく理解している。
 年寄りは体験談を若者に語る時、ついつい己の考えも押しつけ、嫌われる。今回は経験した事実をそのまま伝えるに止め、どの様に受取るかは各々に任せたが、正解だった。

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