インドのゴールデントライアングル
首都ニューデリーを頂点として一辺が約二百キロメートルの正三角形を描くと、東側の角がアグラ、西側の角がジャイプール、という著名な観光地になる。
アグラには最も美しい世界遺産といわれる、ムガール皇帝が妃のために建てたタージマハールがあり、ジャイプールにはかっての宮廷の女性たちが涼みながら街を見下ろしたという風の宮殿がある。
この三都市を巡る観光ルートが所謂ゴールデントライアングルで、三日間でここを見て回る強行ツアーに参加した。
デリー空港に夕方到着し、オールドデリーを抜けてホテルまでの最初の一時間で肝を潰した。片道二車線の道路にバス、トラック、スズキの小型車、オートバイ、自転車、ラクダの荷車が殺到し、信号の無い交差点では混沌の極みである。割り込みは自由、多少の接触は無視。激しい渋滞の中を牛の小集団が悠々と横断する。
絶え間なくクラクションが鳴り、急発進と急ブレーキの連続。その中を逆走してくるバイクがある。狭い歩道に半分乗り上げたまま走る車。日本人乗客はワーとかキャーとか声を上げるが、現地の交通巡査はウンザリ顔でそれを見ているのみ。
翌日、アグラの市街に入ると道幅は急に狭まり、バスの両側にバラックの軒が迫る。車の数は大分減ったが、牛の数が増え、馬、犬、猫、豚、猿、ラクダとヒトといった哺乳類が溢れ返る。交通ルールを守っているのはツアーバスとトラックだけだ。共通語は英語、ヒンズ―語。主な地方語はタミル、テルガ、マラチ、グジャラチ、パンジャビ語それに動物語だ。
食事は機内食も含めてすべてカレーだ。(タンドリ、豆、野菜、ジャガイモ、魚など最大六種)「生野菜、果物は絶対食べるな。氷入りジュースはとんでもない。ビールだけはOK」と現地ガイド。
にも拘わらず、成田に着いた途端にトイレに駆け込み、仕入れた黄金カレーをすべて放出するハメになった。三角に盛り上がった放出物は、まさにゴールデントライアングルそのものの姿であった。