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「800字文学館」

800字で綴る

野瀬 隆平

 気楽に読める本が何かないかと探していたら、「こんなのはどう」と連れ合いが一冊の本を差し出した。図書館で借りたものだという。誰が書いたのかもろくに確かめずに読み始めた。
 一編ずつが比較的短い随筆集である。内容から判断して、どうも日本人が書いたのではなさそうだ。改めて著者を確かめると、やはり外国人だった。略歴の欄を見ると、アメリカ人で、大学を卒業すると同時に来日したとある。母国語でもないのに、よくもこんなに自然な日本語が書けるものだと感心する。随筆の中で、奥さんが日本人であることも触れており、なるほどと思った。

 外国人から見た日本、英語と比較して日本語のどんな所が面白く映るのか、など文明評論的な要素もある。
 内容と同時に、関心を引いたのは、文章の長さと構成である。短い文章の中で、一つのテーマを簡潔に述べ、なおかつ起承転結がつけられている。このスタイル、何となく馴染みがあると思ったら、文章を書く勉強会で、自身が取り組んできたのと同じではないか。
 随筆一編の字数をざっと数えてみると、本文だけでスペースを除くと800字余りで、勉強会での字数制限とほぼ同じである。この随筆、決められた枠の中に連載されたものだろうと、初出を見たら朝日新聞だった。

 この十年、私も身の回りで起きた諸々の出来事、折々に考えたことや旅の思い出などを綴ってきた。現在のことばかりではない、小さいころから歩んできた人生を振り返って記したものもある。書き溜めた数は200編ほどにもなっており、読み返してみると知らぬ内に「自分史」になっている。散逸しない様に、二年ごとに自分でプリントし一冊に製本している。

 ちなみに、このアメリカ人、恥ずかしながら、今まで知らなかったが、アーサー・ビナード氏である。日本語の詩集も出しており、なんと中原中也賞まで受賞している。正に「日本語の達人」なのである。日本人として脱帽するのみ。しかし、負けてはおられない。

『日々の非常口』アーサー・ビナード著

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