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「800字文学館」

物語絵

内藤 真理子

 源氏物語の中で、絵に興味を持つ新帝の寵を争って、御后のお二人と、その取り巻きが、左右に分かれて〝絵合わせ″を繰り広げる巻がある。
 競われる中には「年中節会絵巻」や「年中行事絵巻」等がでてくるが、何と言っても一番人気は、物語絵である。
 博物館に行った折、絵合わせに取り上げられている「竹取物語」の絵巻が展示されていた。
 源氏物語に登場する身分の高い人々は、このように貴重なもので優雅に遊んでたのかと驚く。
 私が見た「竹取物語」は、金箔や鮮やかな色を使い、美しく描かれていた。その絵も見事だが、誰でも知っている竹取物語の、竹の中からかぐや姫が出てきたり、姫の求婚者達に無理難題を言ったり、果ては月に旅立ったりという、奇想天外な物語は、さぞや帝や女房達を楽しませたことだろう。

 博物館に展示されていたものの中に、吉備大臣入唐絵巻というのがあった。
 これも、竹取物語に負けず劣らず面白い。吉備真備が遣唐使として唐に行くのだが、役人の嫌がらせで高い楼閣に幽閉されてしまう。
 そこに泊った者は皆、鬼が出て来て殺されるそうだ。どんな鬼が来るのかと覗いていると、それは、遣唐使の、この地で亡くなった阿倍仲麻呂の幽霊で、吉備真備は、その鬼から知恵や空を飛ぶ神通力を授けてもらう。
 絵は、空を飛びながら一夜漬けで学問を授けてもらっている所。おかげで初見の「文選」を読みこなすことができた。又、やったことの無い囲碁を一晩で習得して名人と対戦し、相手の黒石を一つ飲みこんで勝利したのを、審判が疑って便を調べる様子など、話も奇抜だが、絵もとてもユーモラスに描かれている。掛け値なしの娯楽である。
 格調高き源氏物語もそうだ。優れた文学なのに、サービス精神満点。
 一例をあげると、生真面目で先の赤い鼻をもつ末摘花の君の、世間とはあまりにかけ離れた常識から繰り出される、品はあるものの、容赦のないずっこけ。
 昔の物語や、挿絵の魅力にすっかり嵌ってしまった。

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