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「800字文学館」

竹久夢二の宵待草

平尾 富男

 ホノルルのワイキキ・ビーチは、いつ行っても日本人旅行者で溢れる。昨年10月、そんなオアフ島を避けてハワイ島のコンドミニアムに1週間滞在した。
 ハワイ島はハワイ諸島の全面積の62%を占める火山の島。島中央部には富士山よりも高いマウナケア(海抜4,205 m)とマウナロア(海抜4,169 m)の火山が聳える。それ比べると高さは海抜1,247mだが、今でも盛んに噴火活動を続け溶岩を流出し続けているのがキラウエア火山だ。

 今から80年以上も前の1931年に、明治から昭和にかけて活躍した画家・詩人、竹久夢二がキラウエア火山を訪れていたのを知ったのもこの旅行のお蔭だ。独特の美人画で知られる夢二がキラウエア火山で『宵待草』を描いて、その作品をそこに残していたのだ。この事実を現地で知った時には、その絵は日本で展示紹介されるために、移送されたばかりだった。
『宵待草』は2013年10月、所蔵されていたハワイ・ジャパニーズ・センターから日本の竹久夢二美術館(東京都文京区)に運ばれ、2014年4月から3ヶ月間特別展示されることになっていたのだ。

 縦127cm、横約37cmの作品は、「待てど暮せど来ぬ人を」で始まる自作の詩『宵待草』に、丸テーブルに肘をつき、物思いにふける赤い帯の着物姿の女性が墨と淡い色で描かれ、「キラウイアに宵待草を見出で今は遠き日を偲びて、1931年5月、於布哇(ハワイ)」と添え書きされている。夢二が作詞した抒情詩『宵待草』は、この絵を描く20年近くも昔の1912年に発表された。その直後に曲が付けられて、今日まで広く愛唱され続けている。
 1910年、当時27歳の竹久夢二は、離婚した妻と子供を連れて千葉県の銚子を訪れ、犬吠崎に近い海鹿島(あしかじま)町で秋田出身の19歳の女性に出逢い恋に陥る。つかの間の逢瀬を重ね散歩する二人の姿は近隣住民にも度々見られているが、終に結ばれることはなかった。

 宵を待って小さな花を咲かせるマツヨイグサに事寄せ、実らぬ恋を憂いてこの詩を着想し絵を描いた。宵待草という植物は実在しないから、夢二が創作した名前なのだ。

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