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「800字文学館」

ただいま老化中

首藤 静夫

 数年ぶりの同期会で箱根を訪れた。大学の寄宿寮で寝起きを共にした昔の仲間が集まってワイワイやる会である。
「麻雀サークル」と呼ばれるほど好きだった連中のこと、折角の箱根なのに到着するとすぐ麻雀卓を囲む。卒業後40年たつのに雰囲気は若い頃のままだ。
 だが「団塊組」もすでに60代半ば、久し振りに一晩を過ごすと発見もある。トイレが近くなった。「半チャン」が我慢できずにゲームが中断する。
 目も悪い。照明がやや乏しい遊戯室で牌が見えづらい。特に二萬と三萬が判りづらい。顔に近づけて確認するからバレやすい。
 ドタキャンも一人出た。人間ドックで引っかかり、腸ポリープを切除したとか。
 学生時代は学園紛争や安保闘争、グループサウンズなどで世間をにぎわせた我々世代の今日である。

 一晩楽しく騒いでの翌朝、精算のために7名全員が集合した。麻雀の分もあるから悲喜こもごもだ。K君がそわそわしている、自分のバッグを開けたり閉めたり……。珍しく大勝ちしたのだから落ち着いていてもよさそうなものだ。
 仲間の一人が聞いた、「どうした? 捜し物か?」。
「ウーン、ないんだよ……ハが……」
「ハ ?! 」一同彼を見た。
「寝る前に、ここに入れたはずなんだけど……」
 K君は現役・早生まれでこの中で一番若い。その彼がまさか入歯を捜していたとは。
 さあ、それからが大変だ。おかしさがこみ上げるが、真剣な彼の顔つきを見ると笑えない。表情を隠してみんなで捜す――部屋の中、麻雀室、浴場、食堂――どこにもない。
 山積みにした、使用ずみのシーツ・枕カバーを一枚一枚開いてみる。ない。押入れに重ねた蒲団を引きずり出して調べた。
「あった!」K君の喜びの声があがる。
 そのあとが素早かった。蒲団に紛れこんでいた入歯を水洗いせず、ふきもせず、口に突っ込んだ。
「ああ、よかった。さあ行こうぜ」いつもの快活な彼にもどっている。
 老化は「ハ・メ・○○から」を実感した合宿だった。

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