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「800字文学館」

こうして誰もいなくなった

三春

 運転には性格が表れるそうだ。
 大学三年生の夏、心配性の母親の目を盗み、アルバイトで稼いだ資金で自動車教習所に通った。最初に買ったのはスポーツタイプの初代サニークーペ。以来ウン十年、どうやら私は粗忽者らしい。「ひやり!」としたりさせたりのワースト・セブンを告白しよう。
①免許取り立て、箱根で信号無視。言い訳をするようだが、目立たない信号だった。同じ日、下り山道を曲がり切れず、崖ぎりぎりで必死のブレーキ。
②逆走。第二京浜から環七に入る松原橋でどちら側を走ればよいか迷った。「えーい、ままよ」とハンドルを切ったら、カーブの陰から対向車あらわる。
③憧れの上級生を乗せてワクワクドキドキ。停車中の車を信号待ちと思いこみ、後ろについて赤っ恥をかいた。
④軽井沢。待てど暮らせどデート相手が現れず、一人しおしおと帰京中、渋滞の碓氷峠で怪しげな中年カップルに追突された。これを手始めに、その後二カ月の間に二度の追突。私の運転が下手だからと人は言うが、居眠り運転するほうが悪い。
⑤友人と横浜をドライブ。大型トラックの間をすり抜けたらバックミラーが接触してぐにゃりと曲がった。彼女の青ざめた顔を今も思い出す。
⑥夜の湘南で道に迷った。あの頃はナビもない。曲がってみたらいきなり階段。これまた「えーい、ままよ」と突入した。ガクンガクンと舌を噛みそうになりながらもなんとか下まで降り切ったら、そこは公園だった。
⑦東京住まいに車は不要、レンタカーで充分と決めてから運転の機会が減った。十年ぶりに札幌で子連れドライブ。どうも勝手がちがう。グイッと踏みこんだらいきなりバックした。「生活苦で母子心中」と報道されてはかなわない。緊張で肩も腕もガチガチ、四十肩に。

 こうして、誰もが二度と同乗してくれなくなった。
 ところで、まもなく沖縄に旅行するのでレンタカーを予約した。息子は自分が専属ドライバーだと決め込んでいる。そうとは限らないのに……。

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