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「800字文学館」

妖怪あらわる

濱田 優(ゆたか)

「一つの妖怪が日本を徘徊している。妖怪ウオッチという妖怪が」
 天上でかのマルクス先生がこう宣っているかもしれない。

 夏休みに入って間もない日、久しぶりに小二の双子の孫に会ったら妖怪ウオッチに夢中になっていた。今、子供に大流行のゲームやアニメというが、初耳で彼らの話題に入れない。
 入門書の漫画本を見せてもらった。
 主人公のケータは小五の普通の男の子。妖怪執事ウィスパーから腕時計型の不思議なウオッチを渡されると、街のいたるところにいる妖怪が見えるようになった。ケータは悪い妖怪を説得したり、時に戦ったりして問題を解決し、その妖怪と友達になる――。
「それのどこが面白いの。スーパーマンもモンスターも出てこないのに」
 そういって首を傾げると、テレビアニメの録画を見せてくれた。
 タイトルは『ジバニャンの秘密』。ジバニャンは飼い主のエミを救おうとして車に撥ねられ、地縛霊になった雄猫の妖怪。最期にエミが呟いた言葉にひどく傷つき、その記憶を意識の奥に追いやっている。そんな彼が、ある企みで生前の猫に戻り、エミに大事にされて彼女の真意を知る。そして……」
 どうせ子供だまし、とバカにしていたら意外に奥深く、引き込まれた。孫たちは、地縛霊やトラウマを怖がりもせず、楽しそうに見ている。
 子供も大人も興味を持てるように仕立てられていることが、妖怪ウオッチ大ヒットの一因のようだ。
 また、相乗効果をもたらす、巧みなメディアミックスの仕掛けが注目される。
 娘の話では、このゲームとコミックが出たのは昨年の夏、それが今年の初めにアニメが放映されるや、爆発的なブームになった。双子に人気グッズのウオッチやコインを2セットずつ買うのは大変、と苦笑する。
 この12月には映画化されるそうで、人気はさらに過熱する気配だ。そのうち大先輩のポケモンを追って海外進出を果たすに違いない。
 マルクス先生は、共産主義ならぬ日本生まれの妖怪が世界を席巻したら何というだろう。

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