間が悪い時に大事故
御嶽山は実に間が悪い時に噴火したものである。山が紅葉で彩られる九月の土曜日、好天に誘われた大勢の登山客が昼食を取ろうと、山頂付近に集まっていた正午前に突然爆発が起きた。犠牲者の数が五十名を超え、まことに痛ましい。噴火のタイミングが数時間ずれていれば、平日だったら、山が凍り始める十月中旬以降ならば、台風十八号が一週間早く来ていれば、などと思ってしまう。火山爆発としては中小規模で特別の大噴火ではないというのに。
大事故は間の悪い時を選んだように起ることが多い。したがって破局事故に対するリスク管理は最悪の条件を想定しなければならない。
今年の台風十八号、十九号は九州南部から日本列島を縦断しながら東方海上へ抜けて行った。その予報進路を眺めながら、この先また台風が九州南部に来た時、再稼働した川内原発が大爆発事故を起こしたらと考え、背筋が寒くなった。最大風速が50m/sにもなるという悪条件下では緊急時の屋外作業は不可能に近い。その時は沖縄を除く日本全土に放射能被害が及ぶかも知れない。
福島原発事故の際、政府が巨額の費用を長年かけて開発してきた緊急時放射能影響予測システム(SPEEDI)が住民避難に有効活用されず、問題となった。しかも今後は原発事故の発生直後の緊急避難先決定にこのシステムを利用しない、との原子力規制委員会の意向が示された。その理由は明確でないが、事前のリスク検討にはぜひ活用すべきである。
過去の気象データから通常時のみでなく、台風などの異常時の気象条件を選び、福島原発事故レベルの放出放射能量を入力として与えた時の仮想計算を行い、結果を詳しく公表してほしい。
それは現行の半径10kmとか30kmの円内といった避難対象区域がいかに便宜的な措置であるかを示すかも知れない。しかし「公表すればパニックを招く」という為政者の従来の言は国民を愚ろうしている。我々も「考えたくないものは考えない」との安易な姿勢であってはならない。