作品の閲覧

「800字文学館」

町にスーパーがやってきた

首藤 静夫

 スーパーマーケットの新規開店などありふれた光景で珍しくもない。しかし土地が狭隘で、ローカル色の濃いわが町に初めてのスーパーとなると話は別だ。建設、開店準備のころから話題しきりだった。
 スーパーは私鉄の高架下を利用して駅前の至便な場所に作られた。都心では高架下は飲食店などさまざまな商業施設に古くから使われているが、郊外は未利用のところが多い。このスーパーもそれまで放置自転車が見苦しく置かれていた場所だった。それが一新された。
 高架下の別のところには保育園やトランクルームが開設されており、知恵を絞ればアイデアが出るものだと感心する。
「買物難民」といわれるほど町なかの小売店が衰退しているが、都心まで比較的近いわが町は、通勤者層の増加が目立つ。また隣接する多摩川では若者のバーベキューが盛んである。スーパーはこれらの事情を見越して進出したのだろう。たかがスーパーと言うなかれ、地域の消費者にはささやかな福音である。

 スーパーマーケットを初めてみたのは昭和30年代後半、中学生の時だ。九州の片田舎で、隣町にスーパーというものができたという。珍しいもの見たさに下校後、みんなで自転車をこいで押しかけた、小遣いもないのに。自給自足の農魚村では小遣いをもらっても使いみちがないのだ。
 初めて見るスーパーは、店内照明がまばゆく、商品が整然と並べられ、買物籠があり、チーン・ジャラというレジの音がして……、すべてが新鮮でドキドキした記憶がある。
 今回のスーパー進出は遠い昔のそれを思い出させてくれた。

 それにしても流通業界の動きはめまぐるしい。かつて花形だった総合スーパーでは家電製品や衣料品・日用品などが次々に専門化され分化していった。さらに電子取引や通信販売が領域を拡大している。かつての小売最大手「ダイエー」のブランドも消えるという。
 消費者のニーズや嗜好に合わせて流通業界はますます変貌をとげていくことだろう。 

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧